イーサリアムクラシック(ETC)とは みんかぶ編集室 児山将 2023.07.19 暗号資産(仮想通貨)初心者コラム 時価総額ランキングで22位前後に位置している仮想通貨、イーサリアムクラシック(ETC)。 日本の一般的な認識では、イーサリアム(ETH)の劣化版、開発陣が少ない、イーサリアムに何かあった時のための代替となるブロックチェーン、という状況。 しかしながら、2020年にはcoinbaseで取り扱いが開始されたり、Ethereum Classic Japanが発足するなど底堅いコアなファンからの人気があるのもまた事実。 参考:イーサリアムクラシック(ETC)の coinbase 上場について 今回はEthereum Classic Japanより直々にイーサリアムクラシックとはどのようなブロックチェーンでありどのような特徴があるのかなのか。また、今後どのように使われるようになるのかを寄稿していただきました。 ぜひ、お読みいただければと思います。 目次イーサリアムクラシック(ETC)とは?イーサリアムクラシックの概要イーサリアムクラシックと、イーサリアムの相違点ETCの今後について イーサリアムクラシック(ETC)とは? Ethereum Classic (イーサリアムクラシック、ETC)は、その名が示すとおり、Ethereum (イーサリアム、ETH)と類似性の高いコインです。 2022年10月現在、約5,000億円の時価総額を持ち、時価総額では全コイン中22位に位置しています。また、金融庁のホワイトリストにも掲載されている信頼性の高いコインのひとつです。 一方で、イーサリアムは時価総額約27兆7000億円で、ビットコインに次ぐ時価総額です。今回はイーサリアムの本来の非中央集権型のブロックチェーンを維持するイーサリアムクラシックを、イーサリアムと比較しながら解説していきます。 イーサリアムクラシックの概要 当初、イーサリアムクラシックとイーサリアムは同じイーサリアムでした。 2016年6月にTheDAO事件と呼ばれるハッキング事件が起こり、約65億円相当のコインが盗まれました。これを受けてイーサリアムはハッキング前までブロックチェーンの状態を巻き戻すアップデートを行い現在のイーサリアムとなりました。その時に分裂(ハードフォーク)に反対した一割程度の人たちは、本来のイーサリアムチェーンを維持することを選択し、イーサリアムクラシックが誕生しました。 このTheDAO事件によってハードフォークしたイーサリアムクラシックとイーサリアムですが、分裂の際に変更が加えられたのはイーサリアムのブロックチェーンであり、分裂前のオリジナルのブロックチェーンを受け継いでいるのはイーサリアムクラシックの方であるため、「Classic(伝統的な・由緒ある)」と名乗っています。 しかし、イーサリアムの開発者であるヴィタリック・ブテリン氏が分裂に賛成し、現イーサリアム側を支持したため、分裂後は現イーサリアムが主流とみなされるようになりました。 このような背景からイーサリアムもイーサリアムクラシックもスマートコントラクトの機能を搭載している点は共通しています。 しかし、分裂後の両者はそれぞれ異なる開発陣によって開発が継続され続けているため、お互いに少しずつ変わり続けています。 イーサリアムクラシックと、イーサリアムの相違点 (1)非中央集権型の開発・運営 イーサリアムクラシックは、ブロックチェーンの基本理念とも言える非中央集権(decentralize)を信条としています。 The DAO事件が発生した直後の2016年6月、まだイーサリアムクラシックとイーサリアムが分裂していない時のことです。ハッキング事件をどのように処理するかについて、開発陣の間で激しい議論が起きました。結局、イーサネットワークのブロックチェーンを巻き戻し、事件を無かったことにしようとする意見が開発陣の主流となり、ブロックチェーンに変更が加えられました。 しかし、この方法は中央集権的であり、非中央集権を旨とするイーサリアム(分裂前)の理念に反する行為であるとして、一部の開発陣がハードフォークに反対し、旧来のイーサネットワークを使い続けることにしました。この「旧来のイーサリアム」のブロックチェーンを用いているネットワークが、イーサリアムクラシックです。 したがって、イーサリアムクラシックは、その運営方法が非中央集権的であることを信条としています。開発陣が開発・運営方針を決定するのではなく、従来通りコミュニティーによる非中央集権型の意思決定を尊重していく方針を採用しています。 (2)イーサリアムのPoSへの移行 イーサリアムは2022年ブロックチェーンの合意形成モデル(コンセンサスアルゴリズム)を従来のPoS(Proof of Stake)へのアップグレードを行いました。一方イーサリアムクラシックでは従来の方式であるPoW(Proof of Work)を継続させています。 イーサリアム系に限らず、ビットコインなどの多くの仮想通貨の基盤となっているブロックチェーンのシステムは、マイニングによって支えられています。マイニングにも様々な種類がありますが、管理者のいない非中央集権的なシステムを、管理者に代わってマイナーがブロックの承認作業をすることによって取引の記録を行い、ブロックチェーンを支えていることにおいては、どのマイニング方式でも共通しています。 PoWを用いたマイニングは、膨大な計算が必要であり、その膨大な計算には膨大な電力が必要です。Proof of Workは、無理矢理翻訳すると「仕事量による証明」というような意味であり、より多くマイニング(仕事)をした人ほど報酬を受け取れる確率が高まるため、マイナーは大量の電気を消費しながらマイニング競争を行います。そしてこのマイニングの際に利用する電力量の多さがPoWの問題のひとつとされています。 2022年現在、仮想通貨のマイニングに消費される電力は世界全体の0.5%に匹敵すると言われており、電力の無駄遣いが懸念されています。 そこでイーサリアムは2022年PoS方式への以降を実施しました。PoSはProof of Stake の略で、「所有による証明」というような意味です。 計算量によって取引の記録を行っていたPoWに対して、PoSではコインを多く所有している人ほど取引を検証する機会が多く与えられるため、報酬を得るために電力を使用した競争を必要とせず、エネルギーコストがPoWに比べて格段に低いことが特徴です。 しかしながらPoSでは、保有コイン数に応じてブロックチェーンに対する証明力が増えるという性質のため、平等性の面で問題があります。非中央集権が特徴であるはずのブロックチェーンにおいて、資本主義的な特徴を持つPoSは理念に相反するのではないか、との懸念があるのも当然でしょう。 また、マイナーの報酬問題も付随します。PoWのマイナーは仕事量に比例した報酬を受け取っていましたが、PoSへの移行に伴いマイニング報酬が大幅に下げられてしまうからです。 他方で、イーサリアムクラシックはPoWを堅持し、PoSへの移行は行わない方針を示しています。イーサリアムクラシックは、イーサリアムの中央集権化に反対して誕生したという背景があるため、中央集権的なPoSに対して否定的であり、PoWを守り続けると宣言しています。 これは、言い換えれば、イーサリアムクラシックでは、今後もマイナーの重要性が変わらないということでもあります。イーサリアムのPoSへの移行をきっかけに、イーサリアムを採掘していたマイナー達が、イーサリアムクラシックへと流れてきて今後イーサリアムクラシックが再注目される可能性もあります。 (3) その他のイーサリアムクラシックの特徴 手数料の優位性 イーサリアムクラシックは、Gas値がイーサリアムに比べて安いのも特徴です。 イーサリアム系コインを送金したり、コントラクトを実行したりする際には、Gas(燃料)と呼ばれる手数料を支払う必要があります。このGasはマイナーに支払われ、報酬となります。 Gas値を比較すると、イーサリアムクラシックのGas値は、イーサリアムに比べて低く設定されています。日によって大きく変化する値ですが、だいたいイーサリアムの半分くらいで推移しています。 このため、イーサリアムに比べて、イーサリアムクラシックは手数料の面で大きなアドバンテージがあります。 イーサリアムの現在のGas値 https://etherscan.io/gastracker イーサリアムクラシックの現在のGas値 https://blockscout.com/etc/mainnet/ 開発言語の柔軟性 イーサリアム系コインでスマートコントラクトを実装する際には、ソリディティ(Solidity)という言語がよく使われます。この言語を利用することで、スマートコントラクトを用いた様々なアプリケーションを動かすことができます。例えば、「投票」、「クラウドファンディング」、「オークション」、「売買契約」などの多数の用途にトークンを利用することができます。 イーサリアムクラシックでもソリディティを利用可能です。かつ、このソリディティに加えて、イーサリアムクラシックは、エメラルドプロジェクト(Emerald Project)と呼ばれるフレームワークを導入しました。従来のソリディティにあった不便さやバグなどがエメラルドによって解消され、より柔軟で高度な開発が可能になるとされています。もちろん、引き続きソリディティも利用可能なため、イーサリアムとの互換性を維持しつつ、より高度なアプリケーションの開発が可能になりました。 IoTへ特化した新ブロックチェーンを開発中 イーサリアムクラシックは、参加技術者の数においてイーサリアムに劣ります。利用者がイーサリアムに比べて少ないことと、イーサリアムの生みの親であるブテリン氏がイーサリアムの開発を今も主導しているためです。 このため、イーサリアムクラシックの開発陣は、イーサリアムとの差別化を図るために、今後はIoT(Internet of Things モノのインターネット)を強化していくと発言しています。 IoTとは、簡単に言うと、身の回りに存在するモノ(家電製品から小物まで、ほとんど全て)をインターネットに繋げて、リアルタイムで情報を送受信したり、コントロールしたりする技術のことです。 このIoTは、ブロックチェーン及びスマートコントラクトと非常に相性が良いのです。IoTから得た情報を、セキュリティーと保存性に優れたブロックチェーン上で管理し、またスマートコントラクトを用いて、IoT機器に命令を与えてコントロールすることができるからです。 イーサリアムクラシック開発陣は、このIoTを将来有望な技術の一つとして優先的に開発リソースを割り当てています。 開発陣の強化 上で述べたように、イーサリアムクラシックの開発者数はイーサリアムに比べて少なく、その点で劣位に立っています。その弱点を克服するために、イーサリアムクラシック開発陣は、初期投資額55億円のプロジェクトである「イーサリアムクラシック ラボ」を開設し、起業家や技術者の育成に乗り出しました。 このプロジェクトに賛同したのが、チャールズ ホスキンソン氏です。ホスキンソン氏は、ブテリン氏と共にイーサリアムを開発した技術者であり、また仮想通貨カルダノ(通称ADA)を開発した人物でもあります。そのホスキンソン氏が、イーサリアムクラシックの開発陣に加わったことで、今後イーサリアムクラシックの開発チームはより強化され、将来性が高まったと言えるでしょう。 ETCの今後について 開発の加速 上記のイーサリアムクラシック ラボの稼働もあり、イーサリアムクラシックはアプリケーションやサービスの開発を加速させています。 2018年6月以降は、イーサリアムクラシックを利用した様々なアプリやサービスがリリースされています。 ETC Japan 発足 イーサリアムクラシックは、アジア圏でのPR活動を本格化させました。 ETC Japan、ETC Korea、ETC Chinaが発足し、イーサリアムクラシックのPRを開始しました。公式発表の翻訳はもちろん、コミュニティの形成、情報の発信、イベントの企画など、様々な手法でイーサリアムクラシックを盛り上げていく予定です。 イーサリアムクラシック ラボ 技術者や起業家を支援する、アクセラレータープログラムです。 55億円の初期資本を基に開設されたこのラボは、イーサリアムクラシックを用いたサービスやアプリを開発する技術者や起業家を支援する為のプログラムです。 イーサリアムクラシック開発チームのCTO であるIgor Artamonov氏や、カルダノ(ADA)の開発者であるチャールズ ホスキンソン氏から直接指導やアドバイスが受けられることも、このラボの大きなメリットです。