先日、Ethereumのテストネットの一つであるRopstenネットワークで、Proof of Work(PoW)からProof of Stake(PoS)への完全移行を行うThe Mergeアップグレードの詳細が発表されました。
The MergeはEthereumで過去最も大きなアップデートの1つで、暗号通貨界隈でも大きな注目を集めています。
テストネットでの実装は、6月9日の5時頃が予定されており、問題なくスムーズに進めば夏中のメインネットへの実装も見えてきます。
本記事では、Mergeの詳細について解説していきます。
*本記事では可能な限り正確な情報を記載していますが、情報の性質上完全な正確性は保証できないのでご了承ください。
The Mergeに”今”注目すべき理由
The Mergeは、暗号通貨市場で2位の時価総額(約29兆円)を誇るEthereum史上、最も大きなアップグレードの1つです。
The Mergeでは、PoSへの移行に伴い、報酬を獲得するプレイヤーがマイナーからステーカーへと入れ替わり、新規発行枚数の減少などが起こるため、ETHと周辺の需給に変動が生じる可能性があります。
つまり、今回のThe Mergeで暗号通貨の王様とも言えるEthereumの仕組みが変化し、ETHの用途も大きく変化する可能性があるのです。
Ethereumのメインネットでは、これまでマイナーに対して報酬が支払われていましたが、PoS移行により、報酬はステーキングを行うバリデーターに対して支払われるようになります。
そのため、マイニングの設備投資のためにETHを売却することが無くなり、これはマイナーを中心としたネットワークの構造の変化を意味します。
また、マイナーが撤退せずにEthereumメインネットのチェーンを伸ばし続けるシナリオも一部で想定されており、ネットワークの分岐が発生する可能性も示唆されています。
The Merge自体は、もともとEthereum2.0のアップグレードのPhase0でビーコンチェーンのリリース後、Phase 1以降のシャーディングに先駆けて行われたアップグレード。
そのため、スケーラビリティの改善度合いではMerge自体の影響は少ないと考えられ、スケーラビリティに関して、当面はレイヤー2によるソリューションが主流となることが予想されます。
現在多くの通貨やプロダクトがEthereum上に構築されています。
今回のThe Mergeのアップデートによって前述したような構造、周辺環境が変化し、それが波及して暗号通貨市場全体に大きな変化をもたらす可能性は高いです。
そんなThe Mergeについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
The Merge = エンジンと宇宙船のドッキング?
The Mergeとは、Ethereumの合意形成レイヤーをPoWからPoSにするための大型アッググレードです。
現在、Ethereumには私たちが普段から利用する「メインネット」と、2020年12月にローンチした「ビーコンチェーン」と呼ばれる2つのチェーンが存在しています。
メインネットでは、トランザクションの実行・検証(EVM)とPoWによる合意形成が行われています。
ビーコンチェーンでは、メインネット上のコントラクトにステーキングすることで参加できるPoSによる合意形成が行われますが、トランザクションの実行・検証は行われません。
今回のThe Mergeとは、メインネットを実行レイヤー(Execution Layer)とし、ビーコンチェーンをConsensus Layer(合意形成レイヤー)とするためのアップグレードになります。
Ethereumの公式ウェブサイトでは、宇宙船のイメージを例に出しており、ビーコンチェーンは新型のエンジン、メインネットは宇宙船で、The Mergeはこのドッキングのようなイベントであると解説しています。
メインネットではブロックの採掘難易度によって1ブロックあたりの時間が変動してきましたが、PoSに移行すると、1スロット12秒, 1エポック32スロット(12*32秒=6分24秒)でブロックが確定するようになります。
また、これまで1ブロック(約15秒)あたり2ETHの報酬が発生していましたが、仮に15METHのステーク総額を想定すると、新規発行は90%近く減少します。
これまでのEthereumのアッググレードではブロック高が利用されてきましたが、今回のRopstenネットワークのThe Mergeでは、”Terminal Total Difficulity(TTD)”と呼ばれる累積難易度の数値が一定に達した段階で行われます。
この難易度を通過することで、Proof of Workでマイナーに分配されていたETHがなくなり、Proof of StakeでETHをステークするステーカーに対して供給されるようになります。
一般ユーザーは何ができるのか
テストネットのノードを運用しているユーザーは、クライアントの更新が必要となりますが、今回はテストネットであるため、一般ユーザーが意識すべきポイントは特にありません。
Ropstenでノードを運用する場合は、LighthouseやPrysmなど5つのクライアントから任意の合意形成レイヤーのクライアント、Go-Ethereumなどの実行レイヤーのクライアントを準備しておく必要があります。
具体的な累積難易度の上書きなどの手順は以下の公式ブログで解説されていますので、興味のある方はそちらもご覧ください。(参考:「Ropsten TTD Announcement」)
レンディングプロトコルAaveは、Aave v3をRopsten上にデプロイしたことを発表しています。
The Mergeの完了後に、画面UIからテストネットモードのチェックボックスを入れることで、Merge後のアプリを体験することができます。
今後のThe Mergeと将来の変化
ここまでThe Mergeについて解説してきましたが、今後のThe Mergeについてや、それによって起こりうる変化を見ていきましょう。
今後CRYPTO TIMESでは、本番環境でのThe Mergeに向けて追加で記事を出していく予定であるため、今回はかんたんに紹介します。
メインネットのThe Merge
アップグレードのタイムラインは以下のようになっており、今回のRopsten, Goerli, Sepoliaでのテストが問題なく終われば、メインネットでの実装となります。
メインネットのThe Mergeの具体的な日付は現在発表されておらず、Ethereumのブログで後日公式発表があるようです。
エコノミクスの変更
ETHのサプライに関して、昨年行われたEIP-1559によるバーンに加えて、The mergeによる新規発行の減少が予測されています。
上記シミュレーションでは、PoWがなくなりPoSのEthereumになると、供給量が右肩下がりとなり、デフレ的なエコノミクスへと変化する想定となっています。
ハードフォークの可能性
The Merge以降のEthereumメインネットでは、Difficulty Bomb(難易度爆弾)と呼ばれる、採掘難易度の急上昇が起こります。
これは、1ブロックの生成における難易度を急激に上げることで、マイナーの新ネットワークへの移行を促進するもので、これによりブロックの生成時間が大幅に変動します。
過去、EthereumのDifficulty Bombは何度かアップグレードにより延期されてきましたが、予定通りDifficulty Bombを通過することで、徐々にマイナーがネットワークを離れていくことが予想されます。
一方で、既存のマイナーの選択肢としては、ハードウェアを売却するか、別ネットワークでマイニングを継続する選択肢しか残されておらず、フォークが起こる可能性も視野に入れておく必要があります。
まとめ
今回はEthereum史上最大のアップデートThe Mergeについて解説してきました。
アップデートに関する情報は専門的な内容が多く、理解するのが難しい場合が多いです。
しかし、様々なトークンやプロダクトの根幹となっているEthereumの技術的な部分が理解できると、今後の暗号通貨市場をより正確に捉えることが出来るかと思います。
是非本記事を参考に、一大イベントであるThe Mergeについてリサーチすることをお勧めします。
最後までありがとうございました。
・CT Analysis第2回レポート『ステーキング概要・動向 2020年2月最新版』
・CT Analysis第12回レポート『Ethereum周辺のレイヤー2 スケーリング 概要と動向』
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