2017年8月に誕生したビットコインキャッシュ(BCH)が、飛び抜けて広く使われている仮想通貨ではないことは、誰もが知っている。

ビットコイン(BTC)のスケーラビリティ問題で、セグウィット(segwit)方式による解決を図る「ニューヨーク合意」がまとめられたのが2017年5月のこと。それを不満とするグループが、ビットコインをハードフォークさせて誕生したのがビットコインキャッシュだった。

だが、ハードフォーク直後は盛り上がったものの、その後のビットコインキャッシュの取引は低調にとどまっている。軽いノリで作られお遊び通貨「ドージコイン(Dogecoin、DOGE)」のほうが活発に取引されているとする指標もあるほどだ。

さらにビットコインキャッシュには、新たなトラブルの影が漂っている。来年初めて半減期を迎えるとき、セキュリティーが低下する恐れがあるのだ。半減期とは、マイニング報酬が半減する時期のことで、そのタイミングはそれぞれの仮想通貨の設計当初から決まっている。

ちなみに、この記事に書くことは、ビットコインSV(BSV)などビットコインからハードフォークして、プルーフオブワーク(PoW)の計算にSHA-256を使っている他の仮想通貨にも当てはまる。

★セキュリティー上の不安★

ビットコインキャッシュは、取引生成を安定させるためにDAAという新しい難易度調整アルゴリズムを採用している。ただ、マイニングのペースを一定に保てず、ビットコインよりも早いペースでマネタリーベースが拡大するという「副作用」があった。

これはビットコインのハッシュレートの急落をもたらした。ブロックがよりスピーディーに生成されるなら、ビットコインキャッシュのほうが収益性が高いとマイナーたちが考えたためだ。こうしてビットコインのマイニングペースは一時低下した。

最終的に、ビットコインキャッシュは、当初意図したとおり10分で1ブロックがマイニングされるようDAAを改良した新しいアルゴリズムを採用した。

★ビットコインの半減期とのタイムラグ★

ビットコインキャッシュは来年、ある意味2017年に自らがビットコインに対して引き起こしたのと似たような問題に直面する。ビットコインキャッシュは2020年4月7日に半減期を迎え、ビットコインはその1カ月半後の2020年5月23日に次の半減期が予測されている。

マイナーはブロック報酬とユーザーの支払う送金手数料からマイニングの報酬を得るのだが、送金手数料や価格などすべての条件が同じなら、マイニング報酬が少ないとセキュリティーも低下する。報酬が少なければマイナーはマイニングをやめてしまい、ネットワークのセキュリティーを確保しようと思わなくなるからだ。

セグウィットの採用をめぐるビットコインの混乱が示したように、マイナーは報酬を追い求める。ビットコインキャッシュは、ハッシュ関数SHA-256を採用する通過の中のハッシュパワーシェアという点で比較的セキュリティーは低いほうだが、来年の半減期はその状況を悪化させる恐れがある。

仮想通貨データサイトのfork.lolの予測によると、来年の半減期後のビットコインキャッシュのマイニング報酬は1970ドル。一方、ビットコインの半減期後のマイニング報酬は3万2939ドルになる見通しだ。しかし上述のように、ビットコインキャッシュとビットコインの半減期の間には1カ月以上のタイムラグがある。

ビットコインの半減期前のマイニング報酬は推定6万4471ドル。ということは、ビットコインキャッシュの半減期後の約1カ月半、そのマイニング報酬は、ビットコインのわずか3%程度になる。

もちろんこれらの予測は、ビットコインとビットコインキャッシュの現在の状態に基づくものだ。ビットコインの送金手数料が上昇すれば(過去にもあった)、ビットコインキャッシュの立場はもっと悪化するだろう。

一方、ビットコインキャッシュの価格が上昇すれば、半減期後のセキュリティー確保には助けになるだろう。ただ、ビットコインの場合は、過去の半減期周辺に価格が上昇したが、ビットコインキャッシュの値動きはビットコインとは異なる。

真の問題は、半減期のタイムラグのために、ビットコインキャッシュのマイニング報酬が約半分になったとき、ビットコインのマイニング報酬はすでに約1カ月以上にわたり(おそらく)安定した水準にあることだ。

このためビットコインキャッシュの半減期は、既存の問題を一段と悪化させる恐れがある。ビットコインキャッシュを攻撃したい人物にとって、来年は格好のチャンスになるかもしれない。

(記事提供:LongHash)
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