ブロックチェーンの活用が期待できる領域は、公証やサプライチェーン、デジタルコンテンツなど様々あり、市場規模の大きな領域としては、株式や債券などの証券市場が挙げられます。国外では、ブロックチェーン上で発行された証券による資金調達が行われた事例も多数あり、着実に活用が進んでいるのです。

本記事では国内の動きを踏まえながら、ブロックチェーン上で証券を管理することのメリットを解説していきます。

ユースケースとして証券市場は有望

まず、ブロックチェーンで証券を管理することのメリットを、オレゴン大学の財政学教授で暗号資産(crypto asset)を研究しているStephen McKeon氏の論考「The Security Token Thesis」を基に紹介していきます。

なお、Securityとは証券のことです。また、Security(証券)を発行して資金調達する手法のことを「STO」(Security Token Offering)と呼びます。

セキュリティトークンのメリット

セキュリティトークン(Security Token)とは、ブロックチェーン上で証券化された電子証票(トークン)のことです。McKeon氏の論考によると、そのメリットは以下の点だと考えられています。

  • 24時間365日取引可能(証券市場が閉まらない)
  • 証券の所有権を分割できる
  • 約定時間の削減
  • コスト削減
  • 流動性の増加
  • 法令遵守の自動化
  • 証券・資産同士の互換性(異なる資産をスムーズに交換可能)
  • 新しいタイプのアセットの誕生

出典:https://hackernoon.com/the-security-token-thesis-4c5904761063

重要なポイントはブロックチェーンによって発行・管理・流通される証券は、プログラミング可能であるという点です。プログラムによって、既存の証券よりも厳格な条件設定や自動化を行えるのです。さらに、既存の証券には無い特徴を持った新たな証券がデザインされる可能性もあります。

ただし、技術的には上記のメリットがあるとはいえ、証券は各国の法規制の下に成立している点には留意しておく必要があるでしょう。

証券市場の規模は非常に大きい

証券のうち国内の株式市場だけでもその規模は大きく、ブロックチェーンが導入された場合のインパクトは計り知れません。例えば、日本証券業協会がまとめたレポート「FACT BOOK 2019」によると、2018年の東京証券取引所における株式の売買代金は約794兆円です。世界の証券市場となればその額はさらに大きくなります。

日本の証券市場でもブロックチェーンの活用が始まる

国外ではセキュリティトークンの発行・管理・割当など行うプラットフォームが複数立ち上がっており、さらにはベンチャー企業がSTOで資金調達する事例やブロックチェーン上で債券を発行する事例も出てきています。

一方で日本国内では、ブロックチェーン上の証券について、資金決済法と金融商品取引法の二重規制となっている状況などが要因となり、本番環境での活用がほとんどありませんでした。しかし、2019年5月の法改正によって、ブロックチェーン上の証券に対する二重規制が解消されたため、改正法が施行される2020年前半からは、国内でも事例が出てくると予想されます。

野村グループが新会社設立

国内では野村グループなどが具体的な動きを見せており、野村ホールディングスと野村総合研究所が2019年9月2日に合弁会社「BOOSTRY」を設立しました。新会社であるBOOSTRYは、ブロックチェーンを活用した有価証券(セキュリティトークン)などの権利を交換するプラットフォームを開発・提供するとされています。

また、2019年7月24日付の日本経済新聞の報道によれば、BOOSTRYはまず企業が発行する社債を対象として、2020年夏までに実用化を目指すとのことです。

先述の通り、ブロックチェーン上で証券を発行・管理するメリットとして、コスト削減などが挙げられます。BOOSTRYの取り組みもまさに社債の発行(起債)における事務負担の軽減や、発行手数料の削減を狙ったものであると言えるでしょう。

社債発行コスト削減の効果は絶大か?

社債の発行は通常、証券会社が引受人となって起債プロセス全体を管理しており、その対価として、証券会社は発行額に応じた手数料を受け取っています。起債にかかる事務コストは膨大であり、人件費等を考慮すると既存の仕組みでは数十億~100億円規模の起債でなければ証券会社の採算が合いません。

しかし、ブロックチェーンで社債を発行することで、このコストが軽減されると見られており、理屈の上では1円からの起債が可能になるのです。BOOSTRYの取り組みが上手く機能すれば、企業が起債しやすくなるため、その影響は大きいと言えるでしょう。

日本STO協会も設立、自主規制団体として中心プレイヤーとなるか?

各社の具体的な取り組み以外にも、セキュリティトークンに関する動きが出てきています。セキュリティトークンの普及と改正法施行を見据えて、SBI証券などの大手証券会社は共同で2019年10月1日に「日本STO協会」を設立しました。同協会はSTOに関する自主規制団体となることを目指しており、国内のSTO市場において存在感を発揮しようとしています。

設立時点では、以下の6社が日本STO協会に加盟しています。

  • SBI証券
  • カブドットコム証券
  • 大和証券
  • 野村證券
  • マネックス証券
  • 楽天証券

今後、日本STO協会はもちろんのこと、上記企業の動きも要注目だと言えるでしょう。

証券業界のブロックチェーン活用は進む

少なくとも向こう数年で、ブロックチェーン上で証券を発行・管理する動きは進んでいくはずです。これは国外で既にユースケースがあることや、日本国内の法規制が整備されることを踏まえると、ほぼ間違いなく訪れる未来だと言えるでしょう。

本記事で紹介したように、起債時におけるコストが削減され、企業が起債しやすくなれば、企業の資金調達のハードルが下がるため、経済に良いインパクトを与えます。証券市場での事例は、ブロックチェーンが社会の役に立つ好例となるかもしれません。

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