3. COMPの価値試算
■a.予測の前提

以下では、上記の価格形成論を活用して、Compoundの価格を試算してみたい。CompoundはEthereum基盤のDeFiプロトコルで、最もユーザーを集めるレンディングサービスのひとつである。2020年8月5日時点で同ネットワーク内にロックされている資産額(USD)は約8.2億ドルであり、DeFiの中でMakerDAOに次いで2番目に大きい(DefiPulseより)。6月15日にガバナンストークンであるCOMPをユーザーに無償配布して、初めて市場に流通することとなった。貸し手は担保資産となる暗号資産を同ネットワークに預けると、金利も含めてトークン化(証券化)したCompoundトークン(cToken)を代わりに受け取る。このcTokenはERC20準拠であり、Ethereum基盤のネットワーク内で自由に動かすことが出来る。

Compoundは、ユーザーが担保に対して利息を獲得したり、資産を借りたりできるイーサリアムのアルゴリズムのマネーマーケットプロトコルである。誰でもCompoundの流動性プールに資産を供給し、すぐに継続的に複利を獲得し始めることができる。利率は需要と供給に基づいて自動的にプログラムで調整される。供給された資産残高はcTokenで表される。これは、利息を得て担保として機能する原資産を表す。金利と比例してcTokenの価値は増加する。ユーザーは、原資産の品質に応じて、cTokenの値の最大50〜75%を借りることができる。ユーザーはいつでも資金を追加または引き出すことができるが、借金が担保不足になった場合は借り手だけではなくネットワーク参加者の誰でもこれを清算できる。清算資産の5%割引は、清算人のインセンティブとなる。Compoundプロトコルは、利息の10%を準備金として確保する。残りはサプライヤーに支払われる。

※ユーザー全ての貸し出しトークンはスマートコントラクトにプールされ、借り手はプールからトークンを借りる(相手方を待つ必要がない)。

価格の試算にあたっては、取引所における売買取引、レンディングサービスの2つを、COMPに対する主な資金流入経路と位置付ける。それぞれ、(1)ExchangeにおけるCOMP取引状況(レンディングサービス影響除く単体)、(2)レンディングサービスの利用状況の利用状況、について下記の通り一定の前提を置いている。

・ExchangeにおけるCOMP取引状況(レンディングサービス影響除く単体)
10%:ユーザー数は毎月10%ずつ増加すると仮定する(22年以降は年10%)
776:ユーザー数の初期値を776(7/末付けの実績値)とする
10:1ユーザーあたりのレンディング枚数を平均10コインと想定する
70%:PF流入率を70%と想定する(それ以外は換金によるExchange流入)

・レンディングサービスの利用状況
3%:利用者は初月20,373(ストックベース)として、21年末まで月3%ずつ成長するものと想定する
5%:利用者は22年以降は年5%ずつ成長するものと想定する
10:1利用者あたりのDapps利用枚数は10枚と想定する
4.78%:利用者の配当利回りをCOMP建て4.78%と想定する
10%:割引率を10%とする

■b.「資金流入効果+配当割引モデル」による価値試算

「資金流入効果」からCOMPの価値を試算してみると、現状のCOMPの時価総額は3.5億ドル(1単位135ドル)程度であるが、例えば月間100万ドルほどの資金流入があれば、「資金流入額」を価値変動の主なドライバーとして、時価総額が年間で2,000万ドルほど押し上げられる計算になる。「資金流入効果」から見たCOMPの価値は、2021年末が266ドル、2022年末が298ドル、2023年末が337ドル、2024年末が382ドル、2025年末が437ドルと試算される。「資金流入効果+配当割引モデル」による価格試算値は、これを10%の割引率で割り引いた現在価値は196ドルである。

■c.「ネットワーク効果+配当割引モデル」による価値試算

「ネットワーク効果」からCOMPの価値を試算してみると、COMPについても、例えば月間のユーザー数が20%増えると、経済価値は44%増える計算となる。向こう1年のユーザー数が月間6%の増加率から3%増に逓減していくという見通しのもとでは、「ユーザー数」を価値変動の主なドライバーとして、経済価値は1年間で2倍になる。「ネットワーク効果」から見たCOMPの価値は、2021年末が284ドル、2022年末が315ドル、2023年末が350ドル、2024年末が389ドル、2025年末が432ドルと試算される。「ネットワーク効果+配当割引モデル」による価値試算値は、これを10%の割引率で割り引いた現在価値は165ドルである。

なお、上記の価値は、前提の置き方によって大きく変動する点には留意されたい。

※当コンテンツは8月7日に株式会社フィスコがプレスリリースした『配当割引モデルを活用したDefi関連暗号資産の価格形成論』を4分割して配信している。

『配当割引モデルを活用したDefi関連暗号資産の価格形成論』目次
1.「資金流入効果」、「ネットワーク効果」による価値の向上
a.DAppsを活用したビジネス創出で価値測定ドライバーが出現
b.資金流入効果
c.ネットワーク効果

2.金利の発生で可能になる配当割引モデルの活用
a.配当割引モデルとは
b.金利となる暗号資産の価値が変わらないケース
c.金利となる暗号資産の価値が向上するケース
d.割引率が低下するケース

3.COMPの価値試算
a.予測の前提
b.「資金流入効果+配当割引モデル」による価値試算
c.「ネットワーク効果+配当割引モデル」による価値試算

4.その他
a.金利平価説
b.手数料

5.免責事項

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