ピクセル・マスターのそもそもの始まりは、インターネット上でみんなで1枚の「絵」を描くというアートプロジェクトだった。仮想通貨EOSでピクセル(キャンバスを細分化した小さな区画)を購入すれば誰もが参加できるゲームだったわけだ。ピクセルの価格は開始当初は安かったが、残り区画が少なくなるにつれて高騰。1ピクセルあたり2万5,000ドルを超える値が付いた区画もあった。

多くの参加者がピクセルを塗って1つのアート作品を作りあげるプロジェクトとしては、人気掲示板レディットにおける「r/place」が有名だ。ピクセル・マスターは基本的にはブロックチェーン版のr/placeと言えるが、自分の描いたものを残そうと終了間際にプレーヤーが殺到するあたりはイーサリアムのプラットフォーム上のゲーム「Fomo3D」に似ている。

ピクセル・マスターでは、ピクセルの売上高が前日比で0.5%増えなくなったらゲームは自動的に終了するのがルールだ。ピクセルの売上金やプレーヤー間で売買される際の手数料を合わせたものが最終賞金の原資となり、終了前24時間以内にピクセルを買ったプレーヤーで山分けされる。

10月29日、ピクセル・マスターは公式に終了した。最終賞金の総額は2万2271.8EOSで、最後の1日にピクセルを購入した参加者に分配された。終了時の絵はブロックチェーン上に永久保存されることになっている。プレーヤーが支払った額は総計16万3423.5EOS(約84万2000ドル)だった。

ピクセル・マスターの突然の幕切れには誰もが驚いた。ちなみにFomo3Dが突然終わったのは、ハッカーがシステムに侵入する方法を見つけたからだった。

Dapp(ブロックチェーンを使った分散型アプリケーション)に関する情報を集めたサイト「ダップレーダー」によれば、ピクセル・マスターの参加者と取引高は終了直前の24時間に増加している。その一方でピクセル売上額の増加は0.5%に満たず、突然終了となったわけだがその正確な理由は分からない。

EOSがギャンブルのプラットフォームに?

ピクセル・マスターは終了したが、EOSのエコシステムは成長を続けている。そのうちにイーサリアムのエコシステムをも上回るかも知れない。EOSのプラットフォーム上で作られた人気Dappのトップ10についてダップレーダーで調べると、1日あたりのアクティブユーザー数は2万1101人で、121万3046件(額にして727万2327EOS)の決済が行われている。一方のイーサリアムでは、ユーザー数は5908人で決済は2万9606件(1万1029ETH)だ。EOSプラットフォームのDappで1日に1000人以上のユーザーを集めているのは9つを超える。

だがEOSのDappのトップ10のうち7つがギャンブルアプリだ。上のチャートにあるように、全123のEOSのDappのうちギャンブルアプリは50%を占める。過去24時間以内に限ってみても、EOSのDappのアクティブユーザーのうち72%はギャンブルアプリのユーザーだ(ちなみにゲームユーザーは12%)。過去24時間の決済高を見ても、EOSの全Dappのうちギャンブル関係が78%を占める。これにゲームを加えると実に92%だ。EOSを「ギャンブラー御用達」のパブリック・ブロックチェーンだと言う人がいるのも無理はない。

だがそれは必ずしも悪いことだろうか?

従来型のゲームの動機になっているのは楽しさだが、ブロックチェーンのゲームでは、肝心なのは金儲けということが多い。r/placeとピクセル・マスターを比較することで、金儲け志向のゲームをもっと面白いものにするためのヒントが見つかるかも知れない。

1. r/placeではプレーヤーは5分ごとに1つのピクセルを塗ることが許されており、参加条件はすべてのプレーヤーに平等だった。だがピクセル・マスターでは、投じた金が多い者ほどたくさんのスペースを購入することができた。その違いを背景に、レディットのプレーヤーが協力プレーを行うようになる一方で、ピクセル・マスターのプレーヤーは個人でプレーする傾向が強くなった。参加の公平性を高めたければ、もっと妥当なゲームへのアクセス条件を設計すべきだろう。

2. ピクセル・マスターでは、他のプレーヤーのピクセルを上書きしたければ購入価格に35%上乗せした額で買い取ることができる。今後のゲームでは、協力プレーを促すような仕組みを作るといいかも知れない。例えば、協力してピカチュウの絵を描けば報酬としてトークンがもらえるといった仕掛けだ。そうすればゲームの面白さも増すはずだ。

3. 未来のピクセル・マスターでも、競争している実感を高めるために他のプレーヤーのピクセルを上書きできる設計は維持されるかも知れない。一方で協力的なプレーに対する報酬や他人を妨害するような行為への罰則も採り入れられることになるだろう。例えば協力してモナリザを描くコンテストといったものも考えられるし、ゲーム終了時に参加プレーヤー全員が何らかの報酬を受けられるというのもいいだろう。

一方で、黒であるべき場所を白く塗るといった妨害行為が行われる可能性もある。現行のルールでは、協力プレーをしている人々がこの場所を黒く塗り直すには妨害した人物に金を支払わなければならない。ピクセルの売却価格は購入価格の35%増しだが、妨害したプレーヤーの取り分を減らすようにルールを変更してはどうだろう。例えば売り手には20%だけ儲けを渡し、残る15%は賞金の原資にするといったことも可能だ。モナリザの絵が完成したあかつきには、協力プレーの参加者すべてが、貢献度に比例してこの原資から報酬を受け取ることになる。

ピクセル・マスターのようなゲームは、トークンというインセンティブを使って人間の行動への理解を深める手段になり得る。新たなインセンティブの仕組みを繰り返し考えることを通して、より洗練されたトークンエコノミーを作るためのデータや研究材料が手に入ることだろう。

言い換えれば、ピクセル・マスターにむやみに眉をひそめるべきではない。ギャンブルゲームであっても、有意義な社会実験たり得るのだから。

(記事提供:LONGHASH)

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