鹿やイノシシなど、珍しい食材として近年注目を集めているジビエ。日本では江戸時代から牡丹肉や桜肉などと言われ親しまれてきた食材でもあります。
人気があるにも関わらず、ジビエ肉はスーパーなどではあまり見かけません。そこには食肉として流通させるための高いハードルがあるからです。その課題にテクノロジーで解決策を見出したのが一般社団法人日本ジビエ振興協会です。
日本ジビエ振興協会は食肉管理にテックビューロ社の開発したNEMベースのブロックチェーンである『mijin』を採用しています。
ブロックチェーンで食肉管理をすることでいったいどんなメリットがあるのか、今後のジビエ食肉の管理や流通がどうなっていくのか、解説していきます。
農水省が野生鳥獣の被害防止とジビエ利用をセットで推進
まず、日本におけるジビエを取り巻く環境について知っておく必要があります。近年、日本では野生の鳥獣による影響が深刻化していて、希少植物の食害、交通事故、農作物への被害などが問題となっています。
農林水産省が公開しているデータによると平成29年度の被害額は164億円にものぼっており、営農意欲の減退や離農といった、農業へのダメージが懸念されています。
さらに被害を及ぼす鳥獣の内訳を見ると、イノシシとシカだけで62%もあるのが現状です。
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出典:http://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/attach/pdf/suishin-25.pdf
そこで農林水産省は「有害な鳥獣の駆除」というマイナス面の対策と、「ジビエ振興」というプラス面の対策をセットで推進しています。
鳥獣被害も減らしつつ、ジビエでビジネスを盛り上げよう、というまさに一挙両得の施策を走らせています。
流通ルートが整備されていなかった日本のジビエ
鳥獣被害防止を目的として、シカやイノシシの捕獲数は年々増加しています。しかし、捕獲数が増えたからといって、市場に流通するジビエ肉が増える訳ではありません。
現在、外食産業で流通しているジビエ肉の8割は海外からの輸入品です。日本で捕獲されているシカとイノシシはそれぞれ60万頭ほどですが、このうち市場に流通するのはわずか5%ほど。
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出典:http://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/attach/pdf/suishin-25.pdf
なぜこのような事態に陥っているかと言うと、流通ルートが整備されておらず「食肉」として認められるジビエが少ないためです。
シカやイノシシの捕獲はほとんどが個人によるもので、個人のハンターが捕獲して加工しています。それらの肉は食材の安心・安全を担保するシステムが今まで整備されていませんでした。
ですが2014年に厚生労働省の主管で『野生鳥獣肉の衛生に関する指針』が作成され、ジビエ肉のガイドラインが定められたことで、やっと規格の統一を整備するスタートラインに立てたのです。
つまり、日本のジビエの食肉管理はまだまだ始まったばかりの段階だと言えます。
ジビエ×ブロックチェーンのトレーサビリティシステム
ブロックチェーンによるコストカット
食肉のトレーサビリティは基本的に台帳ベースで行われます。生産者、加工業者、卸売業者、物流会社、小売店などのデータをガイドラインに準拠した形でデータベース化して管理します。
ただし、これをクラウドだけで管理しようとすると大型のサーバーを用意する必要があり、膨大なデータベース管理費用が発生してしまいます。
ジビエ振興協会もジビエ食肉管理システムを検討し始めた時にこの問題に直面したそうです。その解決策としてブロックチェーンを採用した背景について、日本ジビエ振興協会事務局の石毛俊治氏は日経BPの取材に対して以下のように語っています。
「一般的なデータベース管理も考えましたが、複数の大型サーバーが必要になり、構築や運用のコストがかかります。しかし、ブロックチェーンの技術を使えば、複数のパソコンで『台帳』を共有すればいいので、費用を抑えることができます。また、牛肉や豚肉などとは異なり、ジビエ肉には既存の物流管理システムがなかったため、新しい技術を導入しやすかったことも大きな理由です」
ブロックチェーンは「サーバー/クライアント型」のように中央集権的な管理システムとは異なり、「Peer to Peer(ピアトゥーピア)型」なので、複数のノード(パソコン)にデータが分散されており、非中央集権的な管理が可能になります。
そのため、ブロックチェーンの導入によってコストカットを実現しました。
ガイドライン遵守のため、改ざん不可能であることが重要
前述の通り、ジビエの食肉流通のガイドラインは2014年にできたばかりです。さらに、ジビエのハンターは個人が多いため、ガイドラインに準拠した流通ができるかどうかが課題となります。
この点でもブロックチェーンの強みが発揮されます。ブロックチェーンはその性質上、記録したデータにデジタル署名がされ真正性が担保され、さらにデータに誤りがないかネットワーク参加者が検証します。つまり、ガイドラインに則していないデータは流通する前に弾かれるのです。
そしてブロックチェーンは改ざん不可能であるため、ジビエの捕獲から消費者の口に入るまでの食の安心・安全が担保されるシステムが実現しました。
このシステムによって、例えば「シカの個体Aに病原体が見つかった」という事態が発生したとしても、Aという個体だけ回収することが容易になります。
実システムとして稼働した初めてのmijinの事例
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出典:https://mijin.io/
mijinとは、テックビューログループが開発するエンタープライズ向けのプライベートブロックチェーン製品です。
プライベートブロックチェーンの特徴はネットワークに参加できるのは限られた企業や団体または個人だというところです。対義的なのはパブリックブロックチェーンで、誰でもネットワークに参加することができます。ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨はパブリックブロックチェーンを採用しています。
プライベートブロックチェーンのメリットは数多くありますが、食肉管理する上のメリットは前述のようにコストカットや改ざん不可能性にあります。
mijinはブロックチェーン製品として2015年から事業を展開していて、これまで300社以上に導入実績があります。
しかし、この300件のほとんどは実証実験の段階のものでした。そんな中、日本ジビエ振興協会は実システムとして稼働した初めての事例となったのです。
ブロックチェーンの物流・食品領域での活用
導入実績豊富なmijinの中でも、ジビエが最初に実システムとして稼働したという事実からもわかるように、ブロックチェーンは様々な領域での活用が期待されます。
2017年、2018年は「ブロックチェーンといえば仮想通貨」というイメージが先行していましたが、これからはむしろ物流や食品などの管理に導入されていく流れが強まるかもしれません。
有効に利用できる事例がどんどん増えてくれば、仮想通貨を含めてブロックチェーンが再び注目を浴びるようになり、新たなブームが巻き起こるのではないでしょうか。
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