IT大手のIBMがブロックチェーン事業への注力を進めています。ブロックチェーン事業と言うと仮想通貨を思い浮かべがちですが、IBMは仮想通貨ではない領域でのソリューション提供を推進しており、すでに実例も出始めているのです。
特に注力している分野は「食の信頼」「世界貿易」「貿易金融」「グローバル決済」の4つです。
そしてこれらのソリューションは「コンソーシアム型ブロックチェーン」を活用しています。コンソーシアム型ブロックチェーンは、ビットコインやイーサリアムのような誰でもネットワークに参加できる「パブリックブロックチェーン」とは異なる技術です。この技術ついては後述します。
IBMがブロックチェーンを活用して解決したい課題とはなんなのでしょうか。わかりやすく解説していきます。
コンソーシアム型ブロックチェーンとは
限られた複数の企業や団体が参加するブロックチェーン
コンソーシアム型ブロックチェーンとは、複数の信頼できる企業や団体のみネットワークに参加できるブロックチェーンのことです。
前述の通り、ビットコインやイーサリアムは誰でもネットワークに参加できるパブリック型で、管理者が存在しません。その代わりに、ネットワークの監視に参加してくれたユーザーには報酬が支払われる、いわゆる「マイニング」という仕組みがあるわけです。
一方でコンソーシアムには管理者が存在します。ただし、管理者が複数存在していて、互いに不正をしないように監視しあっているので、中央集権的にならないような仕組みです。
コンソーシアム型ブロックチェーンのメリットとデメリット
コンソーシアムを導入するメリットとしては、ネットワーク監視のコストが下げられることが挙げられます。パブリックチェーンの場合、マイナー同士が計算力を競い合って監視をするため電気代などのコストがかかります。その点コンソーシアムだと、限られた信頼できる企業や組織が監視するため、コストもかからず、クオリティも担保されます。
コンソーシアムのデメリットとして一般的に言われるのは、完全な非中央集権的でないため、ネットワークに参加している全ての企業や団体が悪意を持って情報を操作しようとすれば、それが可能になってしまうことです。
それでは、IBMがこのコンソーシアム型ブロックチェーンを利用して展開している4つのソリューションについて解説してきます。
食の信頼『IBM Food Trust』
IBM Food Trustの概要
IBM Food Trustは食の安全をブロックチェーンで可視化するソリューションです。生産者、加工業者、卸売業者、流通業者、製造業者、小売業者等などがコンソーシアム型ブロックチェーンに参加することで、食品のサプライチェーンの透明性を担保し、説明責任を強化することができます。
大手企業と連携し商業化準備中
IBM Food Trustのネットワークには、すでに世界的な大手企業が参入を決めています。
フランス小売のCarrefour、アメリカ小売のWalmart、食品メーカーからはネスレ、ユニリーバ、Tyson Foodsなど、名だたる大企業が参加しており、規模の大きさがうかがえます。
すでに小売業者、生産者、サプライヤーのレイヤーでは18ヶ月にも及ぶテストを終えていて、2018年10月よりIBM Food Trustを商品化して販売を開始しています。
ネットワークに加入するためには100ドル〜1万ドル/月で利用できる仕組みとなっています。参加企業の規模によって料金が変動するシステムです。
気になるのは導入の効果ですが、ITMediaの取材によると、トレーサビリティの追跡に劇的な効果があったとのことです。
スライスされたマンゴーのパッケージを、小売店舗から農場まで追跡するのに、紙の書類が混在していると6日18時間26分かかっていた。それがブロックチェーン・ベースのソリューションを導入することで2.2秒に短縮できた
大企業がこのソリューションを駆使してどのような形で私たちの口に入る食品に安全と安心をもたらしてくれるのかに注目しましょう。
世界貿易『TradeLens』
TradeLensの概要
IBMとデンマークの海運大手企業Maersk(マースク)が共同で取り組む貿易ソリューションがTradeLensです。
ブロックチェーン技術は仲介業者が多い業界ほど効果を発揮する傾向がありますが、貿易業界はまさに仲介が多いことが特徴であり課題でもあります。
いつくもの国や企業をまたいで、膨大な量の紙の資料によって事務作業などのコストが雪だるま式に増えていってしまいます。この課題を解決するために、仲介や書類が果たしてきた役割をコンソーシアム型ブロックチェーンに記録して代替えするのがTradeLensです。
サウジアラビア税関当局と連携し実例創出
TradeLensはクラウドベースで稼働しており、各貿易会社がどのようなサービスを提供しているかに合わせて、サービスを提供する仕組みとなっています。
2017年からIBMとマースクは協業をスタートして大規模な実証実験を重ねてきた結果、2018年にはTradeLensは商品化までたどり着いています。
先行する事例として、サウジアラビアの貿易プラットフォーム『FASAH(ファサー)』と連携して、試験運用を開始しています。ファサーは政府機関から民間企業まで、全ての貿易を結ぶ国家的なプラットフォームなので、実例の創出としては申し分ない規模と言えるでしょう。
貿易金融『we.trade』
we.tradeの概要
we.tradeは金融商品の貿易ソリューションとして開発されています。TradeLensはモノの貿易であるのに対して、we.tradeは金融商品の貿易だと考えてるとわかりやすいです。
金融商品は世界中に数多くありますが、モノの貿易と同じように、国や仲介業者をまたぐことによってコストが増えてしまう課題を抱えています。
世界経済の発展のためには、シームレスでなおかつコストカットされた貿易金融が不可欠ですが、その課題をコンソーシアム型ブロックチェーンで解決する試みがwe.tradeです。
ヨーロッパの銀行と共同開発
we.tradeは金融商品のライブ取引システムをヨーロッパの銀行と共同開発しています。開発に参加しているのはドイツ銀行、HSBC、KBC、ナティクシス、ノルデア、ラボバンク、サンタンデール、ソシエテ・ジェネラル、ウニクレディトの計9行です。
このシステムは2018年7月に商用レベルで取引テストを完了しています。2019年にはヨーロッパから世界へ市場を拡大していくロードマップを発表しています。
グローバル決済『IBM World Wire』
IBM World Wireの概要
IBM World Wireはグローバル決済をほぼリアルタイムで完結させるブロックチェーンソリューションです。グローバル決済とは、つまりは国際送金ですから、Rippleプロジェクトと競合となる可能性があります。
World WireはStellarプロトコルを採用していて、一時的に仮想通貨に変換してから送金を行うことで、既存の国際送金のような高い手数料や時間、手間を省くことができます。
一時的に仮想通貨に変換するのはRippleも同じですが、World Wireは価格が変動しないステーブルコインを採用してるので、その点が差別化となります。
ネットワークを拡大できるかがポイント
World Wireに限らずブロックチェーンを用いた国際送金プロジェクト全てに言えることですが、世界的なインフラになるためにはネットワークの拡大が最重要ポイントです。
ブリッジ通貨を利用して早く安く国際送金できる技術があったとしても、その技術を私たち一般人が手軽に利用できなくてはいけません。
その期待を現すかのように、2017年にはRippleが金融機関と提携するというニュースが出回るたびにXRPの価格が乱高下しました。
World Wireも金融機関とのネットワークを拡大できるか、今後のニュースに期待して待ちましょう。
仮想通貨だけではないブロックチェーンの可能性
ブロックチェーンはビットコインの誕生と共に有名になった技術なので、どうしても「ブロックチェーン=仮想通貨」とイメージしてしまいがちです。
しかし、今回紹介したIBMのような事例を見てもわかるように、IT大手も仮想通貨以外でのブロックチェーン利用に積極的です。
IBMの取り組みはいずれも、世界に受け入れられればビジネスの常識がひっくり返るような一大プロジェクトです。
仮想通貨の投資ブームはひと段落しましたが、2019年はいよいよブロックチェーンが世界的に採用されていくフェーズに移っていくのかもしれません。
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