ブロックチェーンと聞くと「仮想通貨に利用される技術」という印象が持たれがちだが、仮想通貨以外にも用途はたくさんある。
あらためて振り返ると、ブロックチェーンが画期的である所以のひとつはプロダクトに「非中央集権」をもたらすためだ。
改ざん不可能な記録、分散・自立した監視体制、そしてスマートコントラクトによる契約の自動化。これらが仮想通貨に用いられることで、法定通貨でいうところの中央銀行の機能がディスラプト(破壊)された。要するに、ブロックチェーンは“仲介”をディスラプトする性質を持っている。
では、逆に強力な“仲介”が存在している業界とは何だろうか。少なからず広告業界、特にデジタル広告を想起する人はいるはずだ。確かに、広告主とパブリッシャー(メディア)の間には、広告代理店やアドテク企業が仲介する場合がほとんどだ。
現に、ブロックチェーンを用いてデジタル広告をディスラプトしようとするプロジェクトはいくつもある。彼らは何を課題とし、どのようなソリューションを提供しようとしているのだろうか。
広告代理店やアドテク企業の仲介とアドフラウド問題
既存のデジタル広告を取り巻く課題は大まかに二つある。ひとつはパブリッシャーの収益性の低さ、そしてふたつ目はアドフラウドに代表される不正の問題だ。
パブリッシャーの収益性の低さ
デジタル広告出稿までの一般的な流れはこうだ。
- 広告主が広告代理店にプロモーションを依頼
- 広告代理店がキャンペーンに利用するアドテク企業とパブリッシャーを選定
- 各パブリッシャーでキャンペーン開始
つまり、広告主とパブリッシャーの間には広告代理店(場合によってさらにアドテク企業)が仲介することになる。仲介を経てパブリッシャーが手にするのは広告費の30%程度となる場合もある。
さらに、パブリッシャーは広告枠を売ってきてくれる広告代理店よりも立場が弱いのが実情で、収益性の低さは根の深い課題となっている。
一筋縄でないアドフラウドの課題
次に、デジタル広告におけるアドフラウドの問題がある。アドフラウドとは、botなどを利用して不正に広告効果を水増しする手法だ。広告主へのキャンペーンレポートは広告代理店のブラックボックスになりがちなため、このような不正が蔓延ってしまう場合がある。
日本でも、電通がデジタル広告のレポートで虚偽の報告をしたとして問題になったことは記憶に新しい。
アドフラウドの解決策として、透明性が高く、分散した監視が可能なブロックチェーンが効果的であることは想像に難くない。ただし、1秒間に数十万件とも言われるデジタル広告のリクエストをブロックチェーンで管理できるのだろうか。ビットコインが1秒に数件程度しかトランザクションを処理できない現状と照らし合わせると、実現可能性に疑問が残るのも事実だ。
既存デジタル広告を破壊しつつあるプロジェクト
パブリッシャーの収益性とアドフラウド問題、このふたつの課題解決のために、すでに稼働しているプロダクトを紹介する。ひとつはブラウザ業界を牽引するBrendan Eich氏が代表を務める次世代ブラウザ『Brave』。もうひとつは日本でICOを成功させた数少ないプロジェクト『ALIS』だ。
先行する革新的ブラウザ『Brave』
Braveは広告ブロックがデフォルト設定となっているブラウザだ。前述した代表のEich氏はMozillaの前CEOで、JavaScriptの開発者としても有名なWebブラウザの第一人者。また、Braveが実施したICOでは発行した10億枚のトークンがわずか30秒で売り切れた。
影響力抜群の代表と圧倒的なICO実績が取り沙汰されがちなBraveだが、すでにMAUは400万に到達し、2019年には1200万になる見込みで、ユーザーにも急速に受け入れられている。
Braveはユーザー、広告主、パブリッシャーをそれぞれ満足させる仕組みを提供している。まず、広告主は広告代理店やアドテク企業を介さず、独自トークンBATを支払ってBrave内に広告を出稿できる。
次にユーザーは、デフォルトで広告がブロックされているため、Webサイトの表示速度が早くなる。また、広告表示をオンにすると、広告が表示される代わりに報酬としてBATトークンが付与される仕組みだ。
そして、パブリッシャーは有志のユーザーからコンテンツに対する対価として、直接BATトークンを受け取ることができる。
これらはブロックチェーンを利用した自立的なトークンエコノミーであり、仲介業者による中抜きは発生しない。このトークンエコノミーが効果的に機能するかどうかはわからないが、デジタル広告の課題解決のためのひとつの有力な手段であることは確かだ。
検索と広告の疲弊から解放する『ALIS』
2017年に国内発のICOを実施し、今年4月にはクローズドβ版を公開したブログプラットフォーム『ALIS』。彼らのミッションは「信頼できる記事と人々を明らかにすること」だ。ALISに投稿された記事は読者のいいねによって評価され、評価スコアに応じて書き手は独自トークンのALISを受け取ることができる。さらに、評価者にも報酬としてALISが支払われるため、自立的に有益な情報を洗い出す装置として機能する。
ALISが開発される背景にも、既存のWebメディアとデジタル広告に対する課題解決の意図が垣間見える。ユーザーが知りたい情報を求める時、Googleで検索するわけだが、検索結果は広告とSEO対策にまみれた記事ばかりで、本当に知りたい情報にたどり着けない場合がある。さらに、たどり着いた記事も広告でまみれていることがほとんどだ。
ALISが多くの人に受け入れられれば、人々はGoogleではなくALISで情報を求めるようになるかもしれない。SEOや広告から解放された、信頼の可視化された情報を提供する世界をALISは目指している。
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ブロックチェーンで広告効果の指標が変わるか
ブロックチェーンがデジタル広告に破壊的なイノベーションをもたらす可能性について述べてきたが、必ずしも広告が悪ではないし、広告が無くなることはないと筆者は思っている。
現在のデジタル広告の指標はつまるところ「インプレッション」とそれに対する「コンバージョン率」だ(厳密にはインプレッションやLP遷移すればいいだけのブランディング案件もあるが)。
コンバージョン率が1%ならば、99%のインプレッションは記事の視認性を圧迫する看板だ。コンバージョン率を高めるためにはユーザーデータの収集が必要だが、データ収集が加熱してユーザーのプライバシーを脅かしてしまう懸念もある。
ブロックチェーンによるデジタル広告のイノベーションが起きれば、ユーザーのWeb閲覧体験も阻害せず、プライバシーも脅かさないデジタル広告が生まれるかもしれない。その時、広告効果はインプレッションとコンバージョン率ではない指標で計られているのではないだろうか。
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