ベンチャー投資家は、もういらない?

ボー・シェンとの対話より

エミリー・パーカー
LONGHASH

 

ブロックチェーンの世界で、ベンチャー・キャピタリストになるのは簡単ではない。というのも、ブロックチェーンのスタートアップ企業は、もはやベンチャー・キャピタリストそのものをまったく必要としないからだ。

スタートアップ企業は、ベンチャー・キャピタリストの代わりに、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)で、新規に未公開の通貨(トークン)を発行することで、みずから資本を集めることができる。

米国の調査会社CBインサイトの調査では、2016年、ブロックチェーン企業のICOによる資金調達額は50億ドルを超えた。一方で、株式投資家がブロックチェーン企業に行った投資はたったの10億ドルだった。

ちなみに、ICOの50億ドルは800件の契約によってもたらされ、株式投資家は215件の契約で合計10億ドルを投資している。

こうした投資の実態について、誰よりも精通しているのが、投資家のボー・シェンだ。シェンは、中国の投資家であるシャオ・フェン、仮想通貨イーサ(イーサリアム)の考案者であるヴィタリック・ブテリンとともに、ブロックチェーンに特化したベンチャー・キャ

ピタル(VC)ファンドである「フェンブシ・キャピタル」を設立している。

「VC業界は衰退している。有能な人たちも寄ってこない。もはや私たちは必要とされていない」

シェンは、こう吐露する。

「VCというものを見直さなければいけないし、もはやこれまでのビジネスモデルは通用しない。私たちは、この危機をチャンスに変える必要がある。今まさに、それに取り組んでいるところです」

賛否の分かれる一方、企業の在り方を変えるICO

ICOは、賛否の分かれる資金調達方法である。ICOにより、スタートアップ企業は規制当局の監督がほとんどない中、数時間で数百万ドルの資金を調達することができる。

だがICOの世界では、詐欺も蔓延しており、世界各国の当局が、これを厳しく取り締まっている。

中国はICOそのものを完全に禁止した。また米当局は2017年にICOで3200万ドルを手に入れた仮想通貨の創設者を逮捕している。米証券取引委員会は、検挙された企業が「合法なビジネスと手を組んでいるかのような嘘を広めるために、複雑なマーケティング・キャンペーンを張って、新しいデジタル・テクノロジーを餌に投資を募っていた」と指弾した。

一方で、まっとうな企業が行う場合、ICOは企業文化を一変させる可能性を秘めたものだ。シェンによれば、伝統的な企業経済の構造においては、3つの主要なプレイヤーが存在する。創業者、投資家、そして消費者だ。多くの場合、各プレイヤーの利害は対立している。

「つまり、企業が1セントを得るときには、消費者は1セントを失う。投資家が企業から20%の利益を得るなら、創業者は20%少ない額を得ることになる。たいていは、ゼロサム・ゲームなのです。

加えて、ときには3種類のプレイヤーが、違う目的をもってしまうこともある。たとえば、創業者は長期的な評価を望んでいるが、投資家たちは短期的な利益を求めている、といったようにね」

ICOにおいても、互いに異なる動機が存在するという構造はある。たしかに、ICOで投資を行う人々の中には、短期的な利益を狙い、購入したトークンを仮想通貨取引所で可能な限り早く売りさばきたいと考えている人もいる。

だがそうではない購入者たちは、自分たちをその企業と利害をともにしていることを認識している。

シェンによれば、企業がユーザーに直接トークンを販売する際には、企業自身もトークンを所有しているため、ユーザーと創業者たちは、どちらもその企業の投資家ということになり、「彼らの利害は、より一致している」という。

シェンは1963年に上海で生まれ、これまでに金融業界の様々な分野を渡り歩いてきた。株取引の仲介業でキャリアをスタートさせ、証券アナリストとしてやM&Aの現場、ヘッジファンドで金融アドバイザーとしても働いた。

そんな彼がブロックチェーンにも興味を持つようになったのは、この技術には透明性があり、不可逆的で、信頼されているテクノロジーであって、「人間ではなく数学によって支えられている」と感じたからだという。

1.2ドルだった仮想通貨が1000ドルに

シェンが、イーサリアムの考案者であるブテリンにオンライン上で初めて会ったのは、2014年のことだった。2人はその後、すぐに現実世界でも対面している。

当時、ブテリンは「ビットコイン・マガジン」で働いており、中国市場に参入する方法を模索していた。そして彼らは2015年にフェンブシ・キャピタルを共同設立する。

ブテリンは最近、フェンブシ・キャピタルのジェネラル・パートナーの役職を降り、現在はアドバイザーとなっている。またフェンブシとつながりの深い「ワンシャン・ブロックチェーン・ラボ」の主任研究員でもある。

シェンは、そのブリテンについて親愛の情を込めて語り、彼の行動には「非の打ちどころがない」と絶賛している。「彼は人間ではなく、神からの贈り物だ」とシェンはいう。「善良な心の持ち主で、自分に厳しく、決して新たに学ぶことを止めない」。

5000万ドル規模のファンドであるフェンブシは、ブロックチェーン技術に絡んで53件の株式投資を行なっている。シェンによれば、中国での投資はこのうちの11件になる。シェンは、上述のワンシャン・ブロックチェーン・ラボの創設者でもある。

このワンシャン・ブロックチェーン・ラボは、ブロックチェーン技術を推進し、ハッカソン(ハック+マラソンから作られた造語で、技術者たちが数日程度、集中して開発を行い、互いの成果を競うもの)などのイベントを開催している非営利研究機関だ。

同ラボはトークンと引き換えに非営利のプロジェクトに資金を提供している。シェンによれば、イーサと引き換えに、50万ドルをイーサリアム基金に提供しているという。設立当時、1イーサの価格は1.2ドルだったが、2017年には1000ドル以上をつけた。

「利益を出そうとしたわけではなかったが、結果的には儲かったね」と、シェンはいう。

中国はICOを禁止し、仮想通貨交換所を封鎖したが、フェンブシは現在も上海に拠点を置いている。なぜ中国に拠点を置き続けるのかとシェンに尋ねると、彼は静かに笑って言った。

「中華料理が好きだから」。そして、「両親が年配だから、世話をしたい」のだ、と。

ベンチャー投資家は、企業に何を提供できるのか

いま、シェンが注目するのは、ベンチャー・キャピタリストたちがICOの時代にどう適応していくのかという点だ。彼には、さまざまなアイデアがあるという。

たとえば、彼があるベンチャー企業の投資家で、その企業がICOを実施すると決めたとしよう。発行されるトークンから得られた資金の10%は発行した企業が手にし、投資家はその10%の中から分配を受ける。同時に、投資家には、そのトークンを直接、購入できるという第2のチャンスも得られるのだ。

そしてつまるところ、ベンチャー・キャピタリストたちには、資金以上に企業に提供できるものがあるのではないかとシェンは考えている。

「トークンを発行したい新しい企業は、我々から、そのベスト・プラクティスと構造的な建てつけも学ぶことができる」と、シェンは説明する。

「私たちはミスを避けるためのアドバイスをするだけでなく、マーケティングやデュー・デリ、正しい人材を見つける手助けもするだろう」

ブロックチェーンは企業社会を一新させつつあるが、シェンはその混乱をむしろ歓迎している。「伝統的な企業は、自分たちの周りに壁を作って守りに入ることを好む。IPやデータは自分たちのもので、マーケットも自分たちのものだと考えているのだ。

だがトークンの経済には、壁に囲まれた庭はない。ブロックチェーンは透明であり、境界はない」とシェンは語る。

「既存のビジネスと戦うというよりは、完全に新しいシステムを作る必要がある。私の哲学はこうだ。『ウォール街を占拠するな――新しいウォール街を作るのだ』」

※フェンブシ・キャピタルは、LONGHASHにも出資している。

 

翻訳:山田敏弘

出展:LONGHASH x 現代ビジネス

 

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