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蔓延する「ブロックチェーンは善」という空気を鵜呑みにできない理由

筆者: エミリー・パーカー

「改変不能な記録」を記述するのは誰?

エミリー・パーカー, LONGHASH

ブロックチェーンの価値とは

筆者は最近、マサチューセッツ工科大学(MIT)の「デジタル通貨イニシアチブ」でシニアアドバイザーを務めるマイケル・ケーシー氏に、よく「ビットコインは実のところ価値がない」という意見が出ることについて、どう考えているのかとたずねた。

彼の答えは、シンプルだが明快だった。「ビットコインの価値は、シャットダウンできないことにあります」。

ビットコインをシャットダウン(強制終了、ここではシステム全体を止めてしまうこと)できない理由は、すでに周知のことではあるが、取引がブロックチェーンという分散型台帳に記録されているからだ。

ブロックチェーンは誰もがチェックすることが可能だが、誰もコントロールはできない。

つまり、誰にも気づかれることなくブロックチェーンを改ざんすることはできないのだ。

ブロックチェーンが登場してから10年、これまで一度もハッキングされたことがないのは、そんな理由からだ。

ケーシー氏は、この仕組みが世界を変えてしまうと指摘する。「長年、情報を編集する権能は、支配者たちが牛耳っていました」とケーシー氏はいう。

今ではビットコインのおかげで、「私たちは初めて、一見して改変不能な歴史の記録法を手にしたのです」。

しかし、それはどんな場合も「善」だと言えるのだろうか。

「不変性」という概念は、ブロックチェーン神話の根幹にあり、ポジティブなものとして評価されることが多い。

ブロックチェーン関連のカンファレンスに行けば、「変化しない」(immutable)という言葉は、「エコシステム」という単語と同じくらい、あちこちで飛び交っている。

ジャーナリズムから人道支援、サプライチェーンまで、すべてにおいて不変性を保証するためにブロックチェーンを使おうとする組織もある。

さらにブロックチェーンの不変性は政治分野にも波及している。

先月、中国の活動家たちが、削除できないイーサリアムのブロックチェーンを使って、反体制的なメモを掲載し、検閲に楯突こうとした。

不変性を支える「ハッシュ化」

 

不変性の問題は、ケーシー氏と米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の記者、ポール・ヴィーニャ氏の共著『The Truth Machine』(『真実の装置』、邦訳未刊)の中でも大きく取り上げられている。

『The Truth Machine』は、二人の前作『The Age of Cryptocurrency』(邦訳:『仮想通貨の時代』マイナビ出版)の続編という位置付けだ。

両著作の功績のひとつは、誇大に喧伝されがちな暗号世界について、従来とは異なる見解を提供していることだ。

また二人の著者は、類まれな能力を発揮し、ブロックチェーンがどのように社会を再編していくかについて、幅広い分析と技術的な詳細を織り交ぜて読み解いてみせた。

『The Truth Machine』は、ブロックチェーンを改ざんするのがいかに難しいのかを理解するために避けては通れない、ブロックチェーンの暗号化技術についても解説している。

著者らは、ビットコインのマイナー(採掘者)が難解な数学の問題を解くために競い合い、その報酬としてビットコインを受け取っているのかの筋道を説明している。

マイナーは、台帳に新たな取引のブロックを追加することに成功すれば、報酬を受け取ることができるが、ブロックチェーンの取引の、日時や量、送信者や受領者のアドレスを含むすべての詳細は、ハッシュ(文字や数字の列)を生み出すための特別なアルゴリズムによって処理される必要があるのだ。

このハッシュ化が、改ざんを難しくする重要な要素だ。

同著によれば、「存在している取引に誰かが変更を加えようとすれば、他のマイナーたちは(変更によって)新規に作成されるハッシュが、自分たちの持つバージョンのブロックチェーンとマッチしないことに、はっきりと気がつく。よって彼らは、変更されたハッシュを受け付けない」

著者の二人は、こうした技術によって、ブロックチェーンが途上国をどのように一変させる可能性があるのか、大局的に解説している。

公的な登記制度をめぐって汚職が蔓延し、住宅の登記書を持たない人たちがいる国では、ブロックチェーンは大きなインパクトになり得る。

たとえば、中南米の一部地域では、公的な権利書を持たない人がいる。裕福な住宅保有者であっても、アパートを購入する際に、誰かが役所の文書係に賄賂を渡して、権利書に自分以外の名前を勝手に記載していることに気づく、などという事態が発生している。

日付が刻印され、公に監視され、改ざんができないブロックチェーンであれば、「(住宅などの)財産の譲渡は、当事者たちがプライベート鍵を使って取引を互いに検証することで、ただちに実行することが可能になる」と、同著は書く。

これによって、「誰かひとりが独断で、自分の都合のいいように修正することは不可能」になるという。

ブロックチェーンは善人だけに利益をもたらすのか?

『The Truth Machine』は、ブロックチェーンの未来について肯定的なビジョンを見せてくれる。両著者が、この技術を心から認めていることには疑いの余地はない。

しかし同著が他書と一線を画しているのは、著者らがブロックチェーンで賞賛される「不変性」について、その影の部分にも迫っていることだ。

現状では、ブロックチェーンには行き過ぎた誇張がなされ、善意ある人たちだけがこのテクノロジーの恩恵を得るという印象を与えている面がある。だが実際には、そうではない。

どうすれば、力のある悪質な何者かが、中傷や悪態を不変化するためにブロックチェーンを利用することを防げるだろうか? 

ブロックチェーンは「真実」を伝える手段だと広く説明されているなかにあっても、フェイクニュースへの対抗手段になり得ないのはなぜなのか?

ブロックチェーンが諸刃の剣であることは、登記の問題からも見ることができる、と同著は指摘する。

「登記をいちから作らなければならない貧しい国々では、住民の所有権を認証する役割にある政府高官が腐敗していて、最初から嘘の情報をブロックチェーンの登記システムに書き込む恐れがある」。

また、「ガーベッジ・イン/ガーベッジ・アウト」(誤ったデータを入力すれば、誤った答えしか出てこない)という問題もある。

ブロックチェーンに、信頼性の低い元データを入力すれば、問題はさらに深刻化するのだ。

「多くの途上国では、何世紀にもわたって滅茶苦茶な記録が蓄積されてきた。

そうした情報を永久的な不変性のあるブロックチェーンの記録に急いで入力するとなると、他に被害が及ぶような権力者の主張や汚職を正当化し、正式なものにしてしまうという懸念がある」と、同著は指摘する。

賄賂のような犯罪行為があったかどうかを、ブロックチェーンでは知ることができない。ブロックチェーンができるのは、「揉めごとになったとき、汚職役人に対抗する証拠として使い得る、反論の余地がないアクティビティのパターンを明らかにすること」だ。

過大な「礼賛」がはらむ不気味さ

 

さらに大局的な疑問もある。永続的な記録を作る決定は、どのようになされるべきか? また、ブルートフォース攻撃が勝ってしまった場合には? 

「スラム地区では、家の所有権は麻薬ギャングによって決められている場合が多い」と、ケーシー氏と共著者のヴィーニャ氏は書く。

「ギャングが決定権を持つ世界を、ブロックチェーンによって認証したいだろうか?」

こうした問題に対して、簡単な答えはない。だが問題提起をした著者の二人は賞賛に値する。

ブロックチェーンが誇大に喧伝される昨今の雰囲気は、「ツイッターやフェイスブックこそが政府の検閲に対抗し、独裁者を失脚させる手段になりえる」と私たちが賞賛したソーシャルメディアの黎明期に似て、不気味さをはらんでいる。

ソーシャルメディアは、たしかにそうした役割を果たしたが、一方で、独裁的な政府にとっての強力なツールにもなっている。

ブロックチェーンが同じ道を辿るかを判断するのは、時期尚早だ。たしかに、活動家たちはブロックチェーンを使って彼らの物語を永久に残すことができる。

だが圧政的な政府が同じ目的でブロックチェーンを使う可能性はある。

『The Truth Machine』は、ブロックチェーンの世界について真に迫った議論を展開している。

ただ、ブロックチェーンが未来のテクノロジーなら、それを現在を生きる私たちと同じ考え方の人たちだけが使うものだと仮定すべきではないだろう。

ブロックチェーンは書き換えることのできない歴史の記録を記述することができるかもしれないが、誰がそれを書くことになるのかまでは決められないのだ。

 

翻訳:山田敏弘

出展:LONGHASH x 現代ビジネス

 

<本記事ご協力>

LONGHASHは、ブロックチェーン技術の開発と理解を促進するためのプラットフォームです。

LONGHASH

エミリー・パーカー

エミリー・パーカー

作家・起業家。LongHash Co-founder。過去にThe Wall Street JournalおよびThe New York Timesでスタッフライター・エディター、またアメリカ国務省でポリシーアドバイザー、Silicon Valley start-up Parlio (現:Quora)でチーフストラテジーオフィサーの経験がある。著書"Now I Know Who My Comrades Are: VoicesFrom the Internet Underground."

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