市場動向
先週の仮想通貨市場時価総額は、7月第1週の上昇基調を8日まで維持しましたが、9日より再び下落に転じました(第1図参照)。
本稿執筆時点で先週の高値は、9日早朝の2811億ドルで、安値は13日の2420億ドルとなっております。
週始値(2666億ドル)から前週末で相場はおよそ10%の下落を記録しておりますが、6/29の年初来安値(2328億ドル)より上の水準を維持しております(第2図参照)。
先週の注目ニュースとしては、①Bankor(バンコール)がハッキングの被害に見舞われ、2300万ドル相当のオルトコインが流出、②中国当局関係者や米複数エコノミストによる仮想通貨に対するネガティブ発言、③Palladium(パラディウム)が世界初のイニシャル・コンバーチブル・コイン・オファリングの実施予定を発表したことなどがあります。
バンコールにハッキング:2300万ドル相当のオルトコインが不正流出
7/9(月)に「分散型取引所」のバンコールがハッキング被害に見舞われ、1200万ドル相当のEthereum(ETH)、1000万ドル相当のBancor Network Token (BNT)と100万ドル相当のPundi X(NPXS)が盗まれました。
分散型取引所(DEX)は顧客資産を中央集権的に管理せず、「買い手」と「売り手」を直接繋ぎ取引を成立させる仕組みとなっており、高いセキュリティーを有しています。
バンコールのTwitterでも確認できる通り、今回の事件で顧客資産の流出は無かったものの、多くのメディアで「DEXのセキュリティーに疑念が浮上した」という報道がなされており、市場に大きなインパクトを与えています。
しかし、このような旨の報道には多少語弊があります。というのも、そのシステムから言ってバンコールを「DEX」と分類できるかという問題があるからです。
通常、金融商品の取引には「買い手」と「売り手」がいるものです。しかし、バンコールは高い流動性を確保するために、スマートコントラクトの中に「リザーブ」を作りその残高相当のバンコール・ネットワーク・トークン(BNT)を発行する仕組みとなっています。
つまり、ユーザーは、①Bittrexなどの通常の取引所よりBNTを購入し、②バンコール上のスマートコントラクトにBNTを送り(売り)、③送ったBNT相当のオルトコインをスマートコントラクト内のリザーブから受け取れるという仕組みで「取引」を成立させます。
バンコールはこれによりある意味で「取引板」なしで売り買いを成立させ、高い流動性を確保しています。
このように、バンコールは技術的にはユニークなプラットフォームなのですが、これでは一般的な「DEX」が提供するサービスとは乖離しています。
まず、「リザーブ」があることで単一障害点が生まれます。
また、今回の事件を受けてバンコールはサービスを一時停止していることから、プラットフォーム参加者が運営を担う分散型組織体制が取られていません。
したがって、今回の事件はEtherDeltaや0xのような一般的なDEXで起きたとは言い難く、全く別の取引システムの弱点を利用した犯行だったということです。
仮想通貨に対するネガティブ発言相次ぐ:相場下落に拍車か
7/10には中国人民銀行(中国の中央銀行)副総裁Pan Gongsheng氏が中国人に向けて販売を行うICOを「潰す」と、当局のICOに対する姿勢を再度強調する旨の声明を発表しました。
同日には、アメリカで著名な経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏、ヌリエル・ルビーニ氏、ケネス・ロゴフ氏らがFinancial Newsとのインタビューで仮想通貨を批判する発言をしました。
影響力のある複数の人物によるネガティブな発言で、すでに下落基調に入っていた相場に拍車をかけたように見受けられます。
パラディウムがICCO実施を発表:ICOとの違いとは
こちらのニュースは相場には影響を与えませんでしたが、仮想通貨業界にとって注目の動向です。
パラディウムは、銀行と仮想通貨取引所の機能を合わせたシステムを構築し、「法定通貨」と「仮想通貨」間の流動性を高めることを目的としております。
そんなパラディウムの注目ポイントはその資金調達方法です。
今までの仮想通貨業界での資金調達方法は、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)が主流でした。ICOは、投資家よりETHやBTCを集め資金調達を行い、その見返りに新規トークンを投資家に分配するというスキームです。
2017年からはこうした新しい資金調達方法に大きな注目が集まり、ICOでの年間資金調達額の総額は急増しております。
しかし、ICOで発行されたトークンは、将来取引所に上場されるという保証がないなど、投資家は相当のリスクを受容しなければいけません。
一方で、パラディウムが予定しているイニシャル・コンバーチブル・コイン・オファリング(ICCO)では、発行されたトークンを一定のロックアップ期間(パラディウムの場合は3年)を過ぎた後に同社の株式にコンバート(転換)することが可能です。
これにより、IPOのプロセスを経ずとも多くの投資家に株式を販売することができるというメリットが生まれます。
投資家サイドでも、パラディウムの株式のバリュエーションに基づいた、ある程度価値の安定したトークンを入手することができ、上場の心配をする必要もなくなります。
言い換えれば、ICCOは暗号技術を駆使したIPOに近く、まさにクリプトと既存金融を繋げる革新的なスキームと言えるでしょう。
サマリー
7月第1週には相場が全体的に上昇基調に転じ、8週間に及ぶ下落トレンドに終止符が打たれました。
これに伴い市場では期待感が出ましたが、先週はネガティブ材料が重なり、上昇基調を維持できるだけのモメンタムが生まれませんでした。
ビットコインの対ドルチャートを分析すると、先週の相場の反落は619〜6/22の高値圏(6800ドル付近)で起きており、この先は5700ドル(6/29の安値圏)〜6800ドルのレンジで相場が横ばいとなりそうです(下図黄帯)。
これにつられ、仮想通貨市場全体でも同様の値動きが予想されます。
<本記事ご協力>
ビットコインなどの仮想通貨をまとめたメディア『FinAlt』が提供