2019年6月、Facebookが仮想通貨「Libra」(リブラ)を発表して以降、リブラに関するニュースは国内外の大手メディアで取り上げられています。当メディアでもこれまでに様々な角度からリブラについて解説してきました。
リブラは当初、2020年前半にローンチされる予定でしたが、規制当局が計画に対する警戒を強め、リブラ計画の中心となるFacebookへの信頼感の無さも重なり、ローンチが遅れる公算が高いのが現状です。本記事では、2019年11月下旬時点でのリブラを巡る状況を整理していきます。
前提:そもそもLibra(リブラ)とは?
リブラの近況を整理する前に、リブラの概要を簡単におさらいしておきましょう。リブラは、グローバル通貨・金融インフラを構築するプロジェクトであり、スイスに設立された非営利組織「Libra Association」(リブラ協会)によって開発・運営されています。
リブラは価格が米ドルとほぼ連動するステーブルコインであるため、ビットコインのような激しい価格変動がありません。決済通貨としての利用が想定され、金融システムにアクセスできない人々に対する金融包摂の役割も担っているのです。
リブラ協会の立ち上げはFacebookが主導しており、リブラ協会には同社の子会社である「Calibra」(カリブラ)が加盟中です。ただし、リブラ協会はFacebookから独立した組織であり、同社のコントロールが及ぶ訳でもFacebookグループの保有する個人情報の共有も行われる予定も無いとされています。
規制当局からの猛烈な反発、警戒感を示されるLibra(リブラ)計画。なぜ…?
リブラ計画が発表されて以降、特にFacebookに対する規制当局の反発が強くなっています。2019年7月と10月には米下院金融サービス委員会で開かれ、Facebookに対する意見聴取が行われました。7月にはリブラ計画を主導するデービッド・マーカス氏が、10月にはFacebook創業者でありCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が出席しています。
公聴会では委員長が「デジタル通貨およびウォレットを創出するというFacebookの計画に対して重大な懸念を抱いている」と述べ、委員からは激しく追求されました。
さらに、同じく10月に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議では、リブラのようなグローバルステーブルコインによって、各国で「通貨主権にかかわる問題」が生じかねないとして、厳しく対処すべきとの声明が出されています。
また、同年11月には米議会に対して、管理主体が存在するステーブルコインを証券として整理する法案「Managed Stablecoins are Securities Act of 2019」が提出されました。こちらもリブラを念頭においた法案であり、成立すればリブラは証券として分類され、厳しい監督下に置かれます。
米規制当局のFacebookに対する信頼感は皆無
一体なぜ、Facebookは規制当局からこれほど警戒されているのでしょうか?
Facebookは全世界に20億人以上のユーザーを抱えており、仮に通貨を発行すれば各国の経済への影響は計り知れません。しかし、それ以上に深刻な点は、Facebookには過去、不正取得されたユーザー情報が2016年の米大統領選挙や、EU離脱を問う英国民投票に不正利用されていた疑惑が浮上しているということです。さらに、5,000万人規模のユーザー情報を流出させる事件もFacebookは起こしています。
Facebookに対するプライバシーの懸念がアメリカを中心として深刻であり、2018年にはネット上で「#deletefacebook」というキャンペーン(Facebookのアプリとアカウントを削除する運動)が巻き起こったほどです。
日本ではFacebookに対する懸念があまり共有されていないかもしれませんが、アメリカおよび欧州ではこのような状況であるため、規制当局はリブラ計画に対して警戒感を示しています。
FacebookのCEOは規制当局の承認があるまでは発行に関与しないと宣言
このようなFacebookへの不信感を踏まえ、ザッカーバーグ氏は2019年10月の公聴会で、米規制当局が承認するまではFacebookとしてリブラ発行に関与せず、どこの国でも発行しない方針を宣言しています。
ただ、同時にザッカーバーグ氏は公聴会で、中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)を中国が発行しようとしている動きについて、危機感を示しました。実際、公聴会後の10月下旬以降、中国がブロックチェーン技術に注力する姿勢をより鮮明にしており、中国政府がCBDCを発行する時期も近いとの見方が強くなっています。
決済事業者が相次いで脱退。PayPalやMasterCard、Visaも…
規制当局の影響もあり、2019年11月時点でリブラ協会の設立メンバー28社のうち7社が脱退を表明しています。脱退したのは、グローバル決済サービス事業者を含む以下の7社です。
- PayPal
- Mastercard
- Visa
- Ebay
- Stripe
- MercadoPago
- Booking.com
リブラ計画の発表当初、ローンチまでに100社のメンバーを協会に巻き込むとしていましたが、進捗については明らかにされていません。
ただ、リブラ協会には国内企業も興味を示しており、例えば金融持株会社の「マネックスグループ」が加盟申請を行っている旨を大手メディアの取材で公表しています。
Libra(リブラ)の技術開発は順調に進む
様々な懸念があるリブラですが、ウォレットや関連ツールの開発は順調に進んでいるようです。2019年11月時点で、過去2ヶ月間で51,000件のトランザクション(取引)がテスト環境で実行されており、複数のメンバーが既にノード(コンピューター)を稼働させています。
ただし、技術サイドの準備が完了しても規制当局との調整が完了するまでは、リブラは発行されないと見られています。
Libra(リブラ)の行方は不透明だが、重要な取り組みであることは間違いない
本記事では、2019年11月現在におけるリブラ計画の現状を整理しました。総じて、規制当局からのプレッシャーが非常に強く、当初の計画通り2020年前半に発行することはほぼ不可能でしょう。
ただ、中国がブロックチェーンに注力する姿勢を鮮明にしたように、新たな金融システムの覇権争いは今後さらに激化していくと考えられます。その流れの中で、(特にアメリカの)規制当局がどのように反応するかは要注目だと言えるでしょう。
リブラが成功するかどうかは定かではありませんが、少なくとも従来の伝統的な金融システムをアップデートする動きをさらに加速させたことは間違いなく、その問題提起の重要性は疑う余地がありません。今後、リブラがどうなるのかは中国や規制当局の動きも含め、注視していく必要があります。
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