大量の個人情報を持つ「中央集権的SNS」のほころび
あなたの情報は誰のもの?
フェイスブックが大変な苦境に陥っている。
英データ会社ケンブリッジ・アナリティカが、フェイスブックに登録している米国人5000万人分の個人情報を使って、2016年の大統領選で共和党のドナルド・トランプ候補(当時)を当選に導こうとしたことが暴露されたのだ。
事の発端は数年前にさかのぼる。ケンブリッジ・アナリティカは、フェイスブック・ユーザーたちに対価を払って、クイズへの回答をさせたりアプリをダウンロードさせたりした。
これによって同社はユーザーやその友人らのプロフィールから大量の情報を収集したのだが、利用者はそのような形で自分のデータが使われていることを知らなかった。
このニュースによってユーザーの怒りは爆発し、アカウント削除を呼びかける声も少なからず出るほどだった。これを受けてフェイスブックはプライバシー設定を変えると発表した。
このケースは決して単発の事件として片付けられないものだ。フェイスブックがあまりに強大で、あまりに秘密主義であり、さらにあまりに大量の個人情報を保持していることに人々は気づき始めている。
あるレポートによれば、フェイスブックはすべてのユーザーのメッセージやファイル、電話帳を保管している。また同社は、人々が使っているアプリや位置情報までも把握しているという。
もちろん、こうした活動を行っているのはフェイスブックだけではない。グーグルも1人につきWordのファイルなら300万ページ分にもなるユーザー情報を保有している。
私たちはそうとは知らぬ間に私たちを常にスパイできる能力をIT企業に対して与えてしまっているのだ。
そもそもインターネットはこのような姿になるはずではなかった。つい最近まで多くの人たちがフェイスブックのようなソーシャルメディアは「中央集中的な情報管理に対して、むしろ脅威を与える存在になるだろう」と考えていた。
フェイスブックは、たとえば名もなき人々に自分自身の物語を語る手段を与えることで伝統的なメディアに挑んだ。エジプトではフェイスブックが30年続いた独裁政権に対して、一般市民が抗議デモを組織することを助け、革命を起こすきっかけを与えた。
だが今、フェイスブックはある意味で、自分たちが乗り越えようとした中央集権的な権力そのものになってしまったのだ。
最近、筆者が米CNNの電子版に寄稿した記事でも述べたように、人々は既存のソーシャルメディアの困難を乗り越えることのできる非中央集権的なテクノロジーを渇望しており、それが現在ブロックチェーンに熱い視線が注がれている理由でもあるのだ。
そもそも「ブロックチェーン」とは何か
では、そのブロックチェーンとは要するに何なのだろうか? 読者も「ブロックチェーン」と「ビットコイン」という言葉が、同じセンテンスの中で使われるのを目にしてきただろう。
なぜ両者が同じ文脈で使われるかといえば、ブロックチェーン技術がビットコインの取引を分散化して(非中央集権的に)記録するものだからだ。
これは「記録管理」といっても、非常に特殊な方法だといえる。
ブロックチェーンでは、情報があるひとつの中央サーバーに保管されるわけではなく、さまざまな場所にある複数のコンピューター上で更新されていく。
これにより、銀行やクレジットカード会社を介すことなくビットコインを世界中に送ることができる。
ビットコインのブロックチェーンに記録される取引は誰でも閲覧することができ、誰にも知られずにブロックチェーンを改ざんすることはできない。そして、ビットコインは特定の企業や政府が運営しているものではない。
ブロックチェーン技術はビットコインに関連するものとして広く知られているが、まったく異なる分野の産業で応用することも可能だ。ブロックチェーン技術の特徴は、見ず知らずの人同士が、仲介人もいないままに取引することができる点にある。
たとえばブロックチェーンを使えば、住宅を所有する人たちは、Airbnb(エアビーアンドビー)のようなプラットフォームを使うことなく、旅行者たちに直接、家を貸し出すことができるようになるかもしれない。
ブロックチェーン技術はまた、ソーシャルメディアを一変させる可能性も秘めている。フェイスブックのように、私たちのデータをすべてコントロールする中央集権的なプラットフォームに代わって、理論的には、すべてのデータを私たちユーザー自身が所有できるようになる。
ブロックチェーンに記録される情報は仮名性があり(本名ではなくハンドルネームのような仮の名前とセットで記録される)、私たちは自分についての、誰が、どの情報を知ることができるのかを自ら選ぶことができる。
ユーザーの個人情報をすべて保管する中央プラットフォームは存在しないためにハッキングされる心配もない。
私たちが自分自身のデータをコントロールすれば、それによって利益さえ生み出せるかもしれない。たとえばソーシャルメディアに投稿することで少額でも対価を得られる可能性がある。
また、誰かが私たちに広告を見せたいならば、私たちが注意を向けることに対して広告主が対価を支払う仕組みも考えられる。
現時点では、こうした理想と現実にはまだ乖離がある。ブロックチェーンを使うソーシャルメディア企業が、20億人のユーザー数を誇るフェイスブックに取って代わるのには長い時間がかかるだろう。
その上、ブロックチェーンはプライバシー保護問題への魔法の解決法だというわけでもない。ブロックチェーンに保管されている情報は仮名だが、だからといって完全に元の情報を追跡できないということではない。
また、ブロックチェーン上の情報は書き換えができず、当人が望むと望まないとにかかわらず、永遠にブロックチェーンに残ってしまう。
ブロックチェーンをベースにしたソーシャルメディアを設計する人々は、ユーザーのプライバシーをどう守るのか注意深く検討する必要があるだろう。
いずれにしてもたしかなことは、多くの人たちがソーシャルメディアの現状に深い不満の念を持ち、自分自身の個人情報をコントロールできる新たなテクノロジーを求めているということだ。
ブロックチェーンが実際そのビジョンを実現する助けになるのかは早晩明らかになるだろう。試してみる価値は大いにありそうなのだから。
翻訳:山田敏弘
出展:LONGHASH x 現代ビジネス
<本記事ご協力>
LongHashは、ブロックチェーン技術の開発と理解を促進するためのプラットフォームです。