今月はじめ、仮想通貨リップル(XRP)のクジラ(大口投資家)セス・リム氏が、コインテレグラフ・ジャパンのオフィスを訪れた。
リム氏は、XRPに興味を持った経緯について話した他、XRPのさらなる飛躍に向けて大きな転換点となるのは「ビザカードやマスターカードがSWIFTからリップル社に乗り換える時だ」と語った。
同氏の正確な保有額は「ウォレットが特定されるため出せない」ものの、数億のXRPを持っている。
2011年、強固なセキュリティー面からビットコイン(BTC)に興味を持ち、その後、ライトコイン(LTC)のマイニング業を経験。
2013年、XRPが1セント以下の時代に「非中央集権と中央集権のバランスのとれた」リップルに可能性を感じ、マイニング業で稼いだ資金を全て注ぎ込んだという。
当時、XRPがまだ知られておらず取り扱う取引所もない頃、中国でリップルゲートウェイの運営に携わり、OTC(店頭取引)のような形でXRPの取引を促進していたという。
その後、インドネシアで仮想通貨交換所SoarExを立ち上げ、ソアコイン(SOAR)を発行。
現在は、上海交通大学安泰経済与管理学院の最年少講師として、ブロックチェーンについて教えているという。
「この業界でやれることはすべてやったよ」と自信を見せた。
分散型と中央集権型の中間
リム氏がリップルに出会ったのは2013年。
まだほとんど誰にも知られおらず、銀行とも提携していなかったが、「世界中の銀行にとってのクロスボーダー送金サービスになってSWIFTに取って代わることがゴール」というホワイトペーパーに引かれたという。
最近、国際送金市場で新旧送金サービス企業が熾烈な争いを繰り広げている。
これまで送金市場を引っ張ってきたのは、SWIFT(国際銀行間金融通信協会)。
1973年に設立し、提携する金融機関は世界200カ国に1万1000もあるが、送金スピードが遅く、コストが高いこと批判の的となっている。
この問題を解決するブロックチェーン企業として注目されているのがリップル社やJPモルガン・チェースのIINだ。
リップルは、送金完了に数秒しかかからず、「銀行はリップルを通して60~70%のコスト削減することが可能」だ。
現在、リップルのxCurrentは100社以上の金融機関と提携。仮想通貨リップル(XRP)の利用が義務となるxRapidも10月に商業利用がスタートしたと発表された。
またIIN(インターバンク・インフォメーション・ネットワーク)は、米銀大手JPモルガン・チェースが開発したブロックチェーンを基盤に動く銀行間送金ネットワーク。
JPモルガンは、9月にみずほ銀行、りそな銀行、三井住友銀行など75行が参加すると発表した。
マネーロンダリング(資金洗浄)対策に必要な情報の照会手続きを早めることで、国を超えた銀行間での送金スピードをあげる狙いだ。
「けど、分散型コミュニティーの人たちは、リップルのことが嫌いだね」。リム氏は次のように現状を分析した。
「ブロックチェーンの分散型とは、人々に対するコミットメントを意味している。だからブロックチェーンを銀行のために使うのは『退化』と考えるのだろう。本来の意味とは違うとね」
しかし、リム氏は「誰が創設者か分からないビットコインを銀行が支持することはない」と強調。「コントロール不能じゃないか」とリム氏は付け加えた。
「私にとって完全な分散型を手に入れるということは不可能なことなんだ。リップルは分散型と中央集権型の中間にある。そこに魅力を感じて、マイニングで稼いだライトニングを全て注ぎ込んだんだ。2013年の時だ。」
リム氏は、ビットコインは、ゴールドのような価値の保存手段として残るだろうと予測。ただ「媒介手段」として使われても、「実際のユースケース」での普及はないとみている。
(XRPやリップルの未来について語るセス・リム氏)
新しい投資家は”リップル”を知らない
今年5月、米国証券取引委員会(SEC)のジェイ・クレイトン委員長は「ビットコインは証券じゃない」という見解を発表。
同月、当時時価総額2位だったイーサリアム(ETH)についてもSECの幹部が「証券ではない」という見方を示した。
しかし、現在時価総額2位であるリップル(XRP)に対してSECはまだ見解を出していない。
仮想通貨が証券かどうかの判断は、米国証券法の適用対象になるかどうかの判断に関わる。証券かどうかを決める大きな判断材料の一つにあるのが、「十分に分散化されているかどうか」だ。
つまり、リップル社とXRPの関係がSECの判断に影響するとみられている。
18日にリップル社のブラッド・ガーリングハウスCEOは、「XRPが証券ではないことは明白」と改めて主張。
大きな理由の一つとして「もしリップル社がつぶれてもXRPは世界の数百もの取引所で取引され続けるだろう」と話した。
この点に関してリム氏も、リップル社のブランディング戦略がうまくいっている、と同意した。
リップル・ラボとしてのリップル社と銀行のためのXRPシステムとしてのXRPの区別をはっきりさせる取り組みが効果を出していて、リム氏は「古い世代は未だにリップルと呼んでいるが、新しい世代はXRPと呼ぶだろう」と予想した。
実際、最近香港で講演をした際、新たな投資家に「リップル」と言っても通じなかったが「XRP」と言ったら「Coinmarketcapで上から2番目にあるコインだ」ということで通じたそうだ。
リム氏は、リップル社が「単なる開発者の寄せ集め」でない点も高く評価。
リム氏によると、開発者は「アーティスト気質」を持っている人が多く、組織化するのが難しい。
しかし、リップル社は組織づくりと役割分担がしっかりできているという。「ブロックチェーン企業」というより「フィンテック企業」というのが実態のようだ。
またリム氏は、「リップルは金融関係者や政府関係者の間で支持者が多い」ため、SEC対策についても自信をのぞかせる。
性能が良いだけではダメ
「国際送金サービスの利用者は、どんな技術が使われているのか気ににしない」と指摘するリム氏。リップルもこの点を注意した方が良いとみている。
リム氏が例にあげたのは、オープンソースのOSであるLinux(リナックス)が一般人に普及していないことだ。
「多くのハッカーがリナックスを使うが、一般人で使う人はほとんどいない。たとえウィンドウズよりプロセスのスピードが速いとしても、一般コミュニティーは未だにウィンドウズを使っている。(中略)だから、たとえ完璧なプログラムだったとしても、一般人への普及にそのままつながるという訳ではない」
その上でリム氏は、リップル飛躍に向けた分水嶺について次のように予測した。
「大きな転換点となるのは、ビザカードやマスターカードがSWIFTからリップル社に乗り換える時だ」
リップル社が銀行をターゲットする一方、リム氏のソアプロジェクトは銀行口座を持っていない人をターゲットにする。
「 XRPがファミリーレストランだとしたら、ソアはファーストフード店だよ」とリム氏は笑顔を見せながら語った。
現在、力を入れるインドネシアなどでは銀行口座を持たずキャッシュのみで取引をする人が多い。
リップル(XRP)のクジラは、Unbanked(銀行口座を持っていない人)向けに国際送金サービスを提供することを目標に掲げた。
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