様々な問題を起こしながらも、過熱したICOブームに落ち着きが戻ったいま、仮想通貨(暗号資産)市場では、仮想通貨取引所がICOをサポートするIEOの人気が高まっています。
それと並行し、ジワリジワリと注目を集めているキーワードが『STO(証券のデジタル化)』です。STOとはSecurity Token Offeringの略で、発行者がブロックチェーン技術を活用してセキュリティー(証券型)トークンを発行する新たな資金調達方法です。
今回は日本でSTOをリードするレヴィアスの代表取締役を務める田中慶子氏と、同社のアライアンスパートナーである日本エンジェルズ・インベストメントの取締役を務める仲山智久氏、そしてリーガルアドバイザーを務めるアンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健弁護士に話をうかがいました。
レヴィアス:田中慶子氏
STOによって世の中がどう変わるのか?
ICOとIEOを比較すると、IEOは取引所がDD(デューデリジェンス)を行い、発行された仮想通貨の上場も確約されていることから、ICOよりも投資家にとってリスクが低いということが分かります。
では、STOはどうでしょうか?
河合弁護士によると、STOにより、今まで証券になり得なかった小規模のアセットも証券化できる可能性があるとのことです。つまり、資金が有効活用され、お金の流れが活性化されるということです。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所:河合健弁護士
また、デジタル化によって、コンプライアンスに掛かるコストや、証券の管理コストも下がることが期待できます。
そのため、例えば、Jリートなどに組み込みにくい小規模の不動産ファンドなどは、STOに向いていると言えます。
また、社債の発行などもSTOに置き換わる可能性があるものの、そもそも日本では大企業の社債しか取り扱われない傾向にあります。しかし、海外では社債に細かな格付けがあり、諸外国においてはSTOが進みやすい傾向にあります。
しかしながら有識者らによれば、海外のSTOに日本人が日常的に参加できるようになるには、まだ数年は掛かると予想されています。なぜなら、現在、海外及び国内法の制定を待っている状態であり、また検討する投資商品の2次流通マーケットが充実するのにも数年は掛かる見込みだからです。
河合弁護士によると、アメリカではSEC(証券取引委員会)のレギュレーションに準拠できるように条件を設定できるSTOプラットフォームが複数存在するとのことです。そして、アメリカの意欲的な業者は、販売対象国1カ国ずつ対応国の法的手続き進めているそうです。おそらくアメリカを中心にSTOプラットフォームの中で選別が進む可能性があると河合弁護士は言います。
このままでは、また日本はフィンテック市場で差をつけられてしまうのでしょうか?
田中氏によれば、現状、日本ではフィンテック分野の人材が不足しており、特にブロックチェーンやサイバーセキュリティー関連のエンジニアは枯渇している状況です。そのような日本人エンジニアは優秀なものの、そもそも数が少なく人件費が高いという状態との事です。
さらに、河合弁護士は、そもそも日本の現行法は証券のデジタル化に十分に対応していないため、金商法の改正にとどまらず、関連する法律の改正が必須だと言います。2020年には改正金商法の施行により、日本でもSTOによる資金調達が活発化し新たなマーケットができる可能性があるが、本格化には数年を要するであろうとの見解です。
そこから一般の個人投資家にセキュリティートークンの取引が広がるかどうかは、その後にできる2次流通市場次第ではないでしょうか。
STOの市場規模
では、STOはどこまで成長すると見込まれているのでしょうか?
2009年にビットコインが誕生してから数年間は、ほぼ無価値でした。しかし、2017年のピーク時には時価総額70兆円を記録し、2019年9月時点でも時価総額20兆円程度となっています。
また、ICO市場規模は2017年に4000億円程度へ成長したことは記憶に新しいかと思います。さらにPwCなどのレポートによると、2018年1月〜5月までの間だけでもICO市場規模はすでに2017年全体の2倍に上っているとの報告もあります。その中でもTelegramに至っては、たった1社で1700億円以上を調達するという驚異的な実績を残しました。
一方でSTOはまだまだ発展途上の段階です。それでも、2017年でわずか2件であったSTO案件が、2018年には28件に増加しました。そして、2019年下半期には、スイス証券取引所(SIX)が独自のセキュリティートークンを発行する計画があるなど、大きな流れが高まっているといいます。
出所:J-STO LEVIAS SECURITY TOKEN SOLUTION
特に、アメリカのインターネット小売業者であるoverstock.comの子会社tZEROは、2018年第3四半期に134,000,000ドル(約150億円)をSTOで調達したというのだから驚きです。これは、テックビューロのCOMSAやQUOINEのLiquidが調達した100億円を軽く超えています。
そういった流れから見通すSTOの市場規模は、少なくともICO市場規模を上回るだろうというのが、仲山氏の意見です。
日本エンジェルズ・インベストメント:仲山智久氏
この意見には、田中氏と河合弁護士も同意し、長期的に見て、市場の整備が進めば、証券型トークンの時価総額が現在の仮想通貨の時価総額(約20兆円)を越えたとしても全く不思議ではないと言います。
これには、いわゆるインベストメントバンカーなどの既存金融側のSTOへの参入意欲の高まりも挙げられると河合弁護士は語ります。
JSTOとは
レヴィアスのブランドであるJ-STOとは、現在の法律の枠組みの下で組成された事業型ファンド(集団投資スキーム)が行うSTOで、現在商標出願中となっています。事業型ファンドに対する出資者には、出資者の地位を表章するセキュリティートークンが付与されます。
同社は、金融商品取引業者である日本エンジェルズ・インベストメントやアンダーソン・毛利・友常法律事務所などの専門家とも協働し、優秀な起業家を主に資金調達面でサポートしていくことを目指しています。
レヴィアスの代表取締役を務める田中氏は、ICOで詐欺的な案件が多かったにもかかわらず多くの資金が調達されたことを鑑みて、もっと安全に、信頼性があり、資金調達ができる市場が必要だと考えたそうです。
そこで目を付けたのがSTOであり、J-STOではSTOの流通プラットフォームを担うということになります。
未開拓のマーケットにおいて、産みの苦しみは相当なものだったようです。取材の際は笑顔が印象的でしたが、その語り口調からはいくつものハードルを乗り越える必要があったのだと感じました。
今後の可能性について
レヴィアスは2018年2月の会社の設立から1年でJ-STOを発表。その約半年後となる8月には、J-STOによる太陽光ファンドの資金調達の支援を完了しています。
参考:太陽光J-STO(Japan Security Token Offering)による資金調達支援
現在では、国内外の企業から多くの問い合わせが来ており、100億円ほどの不動産をJ-STOで調達したいという話もあるそうです。
仮想通貨(ICO)での資金調達が厳しい日本において、問題をひとつずつクリアしていった成果が大きく花開いていると言えます。法律の他にも、関係団体や当局など調整する壁はまだまだ多いようですが、日本では間違いなく先陣を切っていると言えます。
今後、数千億、数兆円と拡大する可能性の高いSTO市場において、J-STOが欠かせなくなる未来はそう遠くないのかもしれません。
※本記事の意見や予測は、筆者の個人的な見解であり、金融商品の売買を推奨を行うものではありません。
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