規制なき仮想通貨と、規制過剰に陥った金融市場

仮想通貨の世界に暮らす人々の多くは、規制当局が次に何をしかけてくるのかに戦々恐々として、眠れない日々を過ごしている。この業界には、確固として打ち立てられたスタンダードというものが欠如しており、そのために当局がなんの前触れもなく市場を封鎖してしまう可能性があったり、これまでグレーゾーンとされてきたことが、真っ黒になってしまったりするのだ。

株式や金融派生商品のトレーダーとして、筆者が自分のキャリアのほとんどの時期を過ごした米ウォール街では、こうしたことは起きようもない。ルールは明確で、人々は超えてはいけない一線をはっきりと認識している。間違いを犯した者は、意図的にだろうが無意識だろうが、報いを受けることになる。手っ取り早く利益を出すために、違法な空売りで株価を大幅に押し下げたトレーダーを見たことがある。株式市場がそれに気づいたとき、規制当局が介入して当該業者を1ヵ月の業務停止にした。この業者にとっては数百万ドルの損失である。この件で責任を問われたトレーダーと上司は昇進を見送られ、その後、すぐに退職した。

バンカーと規制当局の健全な緊張関係は、金融業界の人々の暴走を抑制するものであるはずだった。だが結局、それは十分なものではなかった。2008年の世界金融危機は、金融市場が自己統制できると過信したことによって引き起こされた。十分な監督を受けていなかったことが、複雑な構造の金融商品やデリバティブ、つまり"金融破壊兵器"を生み出してしまったのだ。その後の展開は、もはや言うまでもないだろう。

世界的金融危機は、深く、消えることのない傷を残した。規制はとことんまで厳しくなった。ビジネスそのものではなく、コンプライアンスがバンカーたちの優先事項になった。銀行が無謀に動くことを阻止し、投資家を守る新しい法規制が世界的に実施された。特筆すべきは米国の金融規制改革法であるドッド・フランク法だろう。ドッド・フランク法には、米国の銀行に、投資家保護のため、特定の投機的なビジネスに手を出すことを制限するボルカー・ルールも含まれている。この規制では、金融危機が起きるまでは、かなり実入りのいいビジネスだった自己勘定売買(自らの資本で行う高リスクの取引)も対象になった。

欧州の第2次金融商品市場指令(MiFID II)もまた、投資家保護の強化と投資サービスの透明性の向上を目的としたものだ。だが、これによってブローカーは取引のデータをこれまで以上に提供せねばならず、顧客の資産を管理している資産運用会社は、顧客が他社よりも、もっとも安い価格を払っていると保証する、これまでより厳しい義務を負うことになった。これは金融業界にとって、かなり大きな費用負担である。バンカーたちはこれに対応しなければならないが、これでは拘束衣を着せられたようなものだといってもいい。

日本はまだまだ「仮想通貨の天国」などではない

では、こうしたウォール街での経験から、仮想通貨の規制当局は何を学び取るべきだろうか? もっとも重要な教訓は、私たちは規制を恐れるべきではないが、悪い規制には注意すべきだということだ。

規制は必要なものであり、仮想通貨にとって、よいことでもある。現在のようにまともな規制がない状況は、説明責任がはたされないまま運営されているビジネスにも間口を広げてしまっている。こうしたことによって詐欺まがいのICO(イニシャル・コイン・オファリング=新規仮想通貨公開)が溢れているのだ。難しいのは、技術革新を阻害することなく、明確な指針を定めることが可能な、規制の枠組みを見つけることだ。

日本はとくに、ウォール街の経験から学ぶべき国だろう。日本が仮想通貨において、もっとも進んだ国の一つであることは知られているが、一方では厳しすぎるほど、リスク対策を重視している。

日本の規制当局は、ビットコインに素早く対応した。改正資金決済法は、仮想通貨を貨幣のような支払手段であると合法化し、仮想通貨交換業を規制する登録制を導入するものだった。こうした政府のお墨付きと、中国や韓国からの需要増によって、日本は仮想通貨取引で、まさしく世界の中心となった。

そんな日本ですら、規制の在り方は完璧からはほど遠い。日本は「仮想通貨天国だ」とか「ICOも自由に行える」といった誤解があるが、現在のところ、それはまったく正しくない。昨年施行された法律は、仮想通貨を支払手段として導入することが企図されたが、まだICOの増加には適応できていない。

金融庁はICOやビットコインATMを含む、仮想通貨と法定通貨の交換には仮想通貨交換業免許が必要だとしている。この、一律的なアプローチは、日本におけるICOやデジタル支払いサービスを開発しようとしているスタートアップ企業に、基本的に「待った」をかけるものだ。

事件に焦って規制強化に走るのは愚策

さらに問題を大きくしたのが、今年初めに5億ドルもの被害を出した仮想通貨取引所コインチェックへのハッキングだ。このハッキング事案は、複数の取引所で安全基準が欠落していることを明らかにし、金融庁は当然ながら新しいビジネスの認可を躊躇するようになってしまった。

現在、何百もの交換業免許とICOの許可が待たれる中で、日本の仮想通貨・ブロックチェーン業界は、強い危機感を抱いている。曖昧な規制が、すでに成長を阻害しており、市場そのものを台無しにしてしまう可能性があるのだ。理想的な規制の枠組みを作るには、規制当局とビジネス界、そして投資家による協議が極めて重要なのである。

フランスのブリュノ・ルメール経済相は、イノベーションを抑圧することのない規制が必要であると強調し、フランスが世界の主要な金融センターの中でもっとも早く、ICOを行う企業に対する臨時立法の枠組みを提案するつもりだと語っている。「ブロックチェーン革命を見逃してはならない」とルメールは発言している。

私たちは、ウォール街の苦い経験を、仮想通貨の世界にまで波及させてはならない。ブロックチェーンのスタートアップ企業で働くといって、多くの人々が投資銀行を去っているのは、何も偶然ではない。銀行はもはや、かつてのように革新的でも、エキサイティングでも、魅力的な職場でもなくなったのである。

一方でブロックチェーン市場には、様々な未来のビジョンを持った野心的な起業家たちが溢れている。規制は、こうした起業家たちを萎縮させるのではなく、繁栄させる手助けになるものでなければならないだろう。

翻訳:山田敏弘

出展:LONGHASH x 現代ビジネス

 

<本記事ご協力>

LongHashは、ブロックチェーン技術の開発と理解を促進するためのプラットフォームです。

LONGHASH