投資詐欺は以前からある「ビジネスモデル」なので、どの時代にもなくなることはありません。しかし、2023年はまたぞろ投資詐欺の事件が多発するようになり、マスコミの報道でも見聞きすることが多くなりました。
しかもその主役は仮想通貨(暗号資産)で、若い人たちを中心に被害の拡大が深刻化しています。2022年には22歳の女性が投資詐欺被害に遭ったことを苦に自ら命を絶ってしまう事件も起き、その被害の深刻さが浮き彫りになっています。
こうした事件が今後も多発すると仮想通貨自体への不信感を抱く人が多くなるかもしれませんし、何よりも被害に遭ってしまうと命に関わるようなショックを受けてしまうこともあります。
そこで近年また多くなっている仮想通貨絡みの投資詐欺について、その傾向と対策を解説したいと思います。仮想通貨自体は決して怪しげなものではなく、今後も経済の一角を担う重要なシステムです。それを悪用した犯罪がなくなるよう、当記事の前編と後編の情報をお役立てください。
2023年5月に起きた大規模な摘発事例
2023年5月に、「マーケットピーク」という会社の関係者9人が逮捕されるという大規模な摘発がありました。この「マーケットピーク」は、仮想通貨の仕組みを悪用した投資詐欺グループであり、マルチ商法で荒稼ぎをしていたグループです。
手口については決して目新しいものではなく、マルチ商法で暗号資産への投資を勧誘していただけです。マーケットピークが発行している草コインに投資をすれば必ず儲かる、その投資者を勧誘するとそれも儲けにつながるというわけで、実に古典的な手口でした。しかしマーケットピークは仮想通貨を商材としており、その点が若い人たちに「何となく儲かりそう」という印象を与え、それがまたたく間に広がって被害が拡大しました。
このマーケットピークを仕掛けた容疑者たちは以前に別のマルチ商法を仕掛けていて、その時の被害者が冒頭で紹介した22歳女性だったそうです。この女性が亡くなってしまったことによって前身となるマルチ商法は問題視されてしまったため、次は仮想通貨とばかりに「復活」を果たしたようです。
さすがにこうなると悪質だと警察も判断したようで、このたびの大規模な摘発となりました。
お金がない人には消費者金融で借りさせる
このマーケットピークの事例では、大学生に100万円を超えるような出資をさせていました。普通に考えると、大学生がそんなお金を用意できることのほうが稀でしょう。
そこでこのマーケットピークの会員や勧誘者たちは、勧誘をした上で新規登録者に消費者金融でお金を借りさせていました。大学生であっても初めてであれば消費者金融を3社ほど回ると150万円程度のお金を借りることができるため、その仕組みを悪用したものと思われます。
しかもこのグループは勧誘時に「その日のうちに複数業者から借りないと情報が共有されるので追加で借金ができない」と指南し、即日のうちに数社からお金を借りさせるといった悪質な行為にも及んでいました。
これだけのお金を出しても、それが儲からないことは火を見るよりも明らかです。マーケットピークが発行した草コインはほぼ無価値といえるだけの下落をして、多くの入会者が損をしました。「10人勧誘すればタワマンに住める」と言われて入会した人もいるそうですが、タワマンどころか今の生活もままならなくなってしまったことでしょう。
なぜかお金を出してしまうカラクリ
消費者金融でお金を借りると金利が高いので、苦しくなることは誰でも分かります。それなのに、なぜ若い人たちはこのマルチ商法にのめり込んでしまったのでしょうか。そこには、今どきの社会情勢も深く関わっています。
かつてマルチ商法といえば友人がその友人を勧誘するといった形が主流でした。しかし、今ではSNSで集客をしたり、マッチングアプリなどで男女の出会いを装ってターゲットを見つける手口も多くなっています。もちろん個人間の人間関係による勧誘も依然として多く見られますが、それ以外にも勧誘をするチャンネルが多くなっているのが今の特徴です。
また、街頭でアンケートなどと称して勧誘する事例も多くなっており、見ず知らずの人とつながりやすい現代はマルチ商法を仕掛ける側にとって好都合なのかもしれません。
そしてマルチ商法のことをあまり知らない若い人たちに対して「タワマンに住める」「高級車に乗れる」「一生お金に困らないようになる」などと勧誘すると、お金を出してしまう人がいるのはどの時代も同じです。
それでは、今どきのマルチ商法や投資詐欺に対して注意できることはあるのでしょうか。特に多くなっている仮想通貨絡みの怪しげな話に対する対策を、後編で解説したいと思います。
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