IBMは大手IT企業の中でも積極的にブロックチェーンを取り入れた製品を開発しています。いくつかあるIBMのブロックチェーン製品の中でも、私たちの生活にもっとも密接しているのは食の信頼を担保する『IBM Food Trust』です。
Food Trustは食品が私たちの手に届くまで、どのように収穫、加工、流通などされてきたかがブロックチェーンによって記録することができます。
このブロックチェーン製品はすでに商業化されており、数多くの世界的企業がFood Trustのネットワークに参加しています。ブロックチェーンは歴史の浅い技術にも関わらず、なぜFood Trustは期待を集め、採用する企業が増えているのでしょうか。わかりやすく解説していきます。
食の信頼をめぐる課題
複雑すぎるサプライチェーン
サプライチェーンとは直訳すると「供給連鎖」、つまりモノが生産されて販売されるまでの流れ全体を指す言葉です。
こと食のサプライチェーンに関して言うと、農作物や食肉が生産されてから消費者に届くまで、かなり複雑な経路をたどっています。
もちろん、どこでどのように生産、加工、流通、販売されているかの資料は残されています。しかし、資料があるもののそれらの資料が体系的に管理されておらず、資料を確認したいときに確認できない状態が発生しています。
これが食の信頼を揺るがす複雑化しすぎたサプライチェーンの課題のひとつになっています。
サプライチェーン参加者がデータにアクセスできない
サプライチェーンが複雑化している以外にも課題はあります。前述したように、サプライチェーンに関する資料は残されていますが、実質的に資料は「残されているだけ」になっています。
食の信頼を担保するためにトレーサビリティを行っているにも関わらず、資料にアクセスできないのです。
例えば、A農場で収穫されたトウモロコシに問題があったとします。しかし、サプライチェーン参加者は資料にアクセスできないため、問題のあるトウモロコシが自分の手元にあるかどうかが確認できません。
本来的には、サプライチェーン参加者が関連する食品のデータにアクセスできるべきですが、今までこの課題を解決するソリューションがありませんでした。
IBM Food Trustの仕組み
IBM Food Trustはブロックチェーンを活用してサプライチェーンのトレーサビリティを実現する製品です。18か月に及ぶ実証実験で生産、加工、流通、販売など様々なレイヤーでのテストを経て、2018年10月から正式に商業化しています。
安全で持続可能性の高い食品サプライチェーン構築
ブロックチェーンでトレーサビリティを管理することで食の安全性は格段に上昇します。例えば、カットしたマンゴーの商品のトレーサビリティを調べたい時に、これまでの複雑な管理だと全てを把握するために数週間を要していました。しかし、Food Trustを利用すれば全ての情報に数秒でアクセスすることが可能になります。
また、仮に問題のある食品がサプライチェーンに混入しても、それらの商品は迅速に、かつ的確にリコールすることができます。これによって、これまで3分の1が廃棄されてきたとされる食料の廃棄率が改善されます。
IoTとビッグデータの活用
ブロックチェーンを導入することで、体系的なデータにアクセスできるようになります。さらに、IBMの強みとしてこれまで培ってきたIoTやビッグデータの領域との掛け合わせが期待できます。
サプライチェーンの透明性が担保されれば、ビッグデータと突き合わせることで様々なメリットが生まれます。例えば、保存管理を改善することで鮮度を保ったり保存期間を延ばすこともできますし、需要と供給のマッチングをこれまで以上の精度で管理することも可能になります。
こうした特徴はIBMならではと言えるでしょう。
企業の参入メリット
デジタル管理された食品認定
Food Trustに参加すると、食品認定するシステムを利用できます。このシステムにはデータを無制限でアップロードすることができ、システム上で食品情報を共有が可能になります。
もちろん、サプライチェーンの上流、下流の情報を追跡することもできるので、需要、食品廃棄物、鮮度を高い精度で管理できます。
IBMの専門家によるサポート
Food TrustのいずれのプランにもIBMの専門家によるシステムのサポートを受けられます。専門家と連携して仮想的なオンボーディングを受けることができます。
システムを導入するための手順や、機能の説明などをオンラインで対応してもらえます。
事業規模に合わせたプラン
Food Trustを導入するには、一般的なオンラインシステムのようにIBM IDでログインしてプランを選択すればOKです。
プランは事業規模に合わせて選択できるようになっており、スタート価格は売上高5,000万ドル未満の事業者に向けた月額100ドルのプランから。売上10億ドルまでの中規模事業者は月額1,000ドル、それ以上のグローバル企業は月額10,000ドルとなっています。
世界的大企業が次々と導入
Food Trustは商業化して間も無く、大企業が次々とネットワークに参入して話題となっています。
アメリカの小売大手ウォルマート、フランスの小売大手カルフール、スイスの食品大手ネスレ、オランダとイギリスに拠点を置く大手メーカーユニリーバ、世界最大の多国籍食品企業のタイソンフーズなど、超巨大企業が導入を進めています。
それほど、食の信頼の担保を根本的に解決するソリューションが今までなかったことがうかがえる業界の動向です。
これらの企業が本格的にFood Trustを活用し始めたら、世界の食品サプライチェーンのシェアから見て巨大なインパクトが生まれることは想像に難くありません。
Food Trustが導入の投資に見合ったリターンを提供できるか注目です。
途上国の食の安全の課題解決にも期待
大企業の参入でマーケットシェアとしてはインパクトは絶大ですが、これは先進国の食の信頼に限った話です。
ブロックチェーンによるサプライチェーンの透明化は、途上国の「食の安全」の担保にも有効なソリューションです。
世界保健機構(WTO)が2015年に発表したレポートによれば、世界では毎年6億人、つまり10人に1人が汚染食品の被害にあっており、そのうち42万人が死に至っています。
この事実を考えると、ブロックチェーン技術は食品の品質管理の底上げにも利用して欲しいものです。IBM Food Trustが実績を証明し、世界中でブロックチェーンによる食品管理を実現することを期待したいですね。
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