IBMと海運大手の『TradeLens』が挑む貿易×ブロックチェーンの可能性

IT大手のIBMと、海運大手のMaersk(マースク)は2018年1月に貿易領域でブロックチェーンを活用する共同ベンチャー『Maersk TradeLens(マースク・トレードレンズ)』の設立を発表しています。

物流のような多くの組織が絡む巨大なエコシステムにおいて、どのようにブロックチェーンを活用するのでしょうか。そして既存のシステムから置き換わった場合にどのようなインパクトが生まれるのでしょうか。

IBMとマースクの取り組みの内容と、その影響について解説します。

貿易領域の課題と市場インパクト

70億人までに膨れ上がった人口を支えるために、多くの分野で貿易なしでは立ち行きません。貿易のエコシステムはどのくらいの規模で、どのような課題があるのでしょうか。

消費財の80%、GDPの60%に影響

貿易エコシステムのコストと規模は指数関数的に膨れ上がっています。消費財の80%に及ぶ4兆ドル以上の価値を持つ商品たちが海運で運ばれています。

80%というと、普段オフィスや家で使っている商品はほとんど何かしらの貿易を経て私たちの手に届いていることになります。

さらに驚くべきことに、世界のGDPの実に60%は貿易によって生み出されています。

仮に世界中の貿易システムがブロックチェーンに置き換わったとしたら、その影響力はあまりにも巨大であることが想像できます。

200の手続きに30人が関与

巨大な貿易エコシステムですが、オペレーションは複雑でローテクなケースが多くあります。

例えば、東アフリカからヨーロッパへ商品を1回発送するために関わる人は30人にのぼり、200項目に及ぶ独自の手続きを経て初めて貿易が完了します。

そして最大の課題は、これらの情報が4インチの紙の資料で管理されていることです。

本来的には、関わった人と手続きはオンラインで保管され、サプライチェーンの参加者は誰でも情報にアクセスできることが好ましいです。しかし、いくつもの国や組織をまたいで体系的にデータを管理することは簡単ではありません。

IBMとマースクはこの課題をブロックチェーンで解決しようとしています。

TradeLensの目指す分散型認可システム

TradeLensの提供するソリューションは200の手続きが紙の資料に記録されているシステムをゼロから構築し直すという大規模な計画です。

もっともインパクトが大きいのは、紙で記録されていたデータをブロックチェーンで管理することです。ブロックチェーンで管理することで、手続きや関わった人がオンラインのデータとして可視化されます。

ブロックチェーンは改ざんが不可能なので、手続きの不備を見つけることも容易になりますし、仮に不備があるまま出荷されてしまったとしても、問題のある商品だけ回収することも可能になります。

TradeLensでは、ブロックチェーンでデータを記録するだけでなく、サプライチェーンに参加する全ての人や組織が分散的にデータのやりとりをすることができます。

ブロックチェーンはピアツーピアでイベントデータを交換できます。つまりサプライチェーンの参加者同士が直接データの取引をできるようになります。

ピアツーピアの利点は中央集権的なデータの管理にならないことです。もしもサプライチェーンのデータがひとつの企業のサーバーで管理されていたら、莫大なサーバー管理費用がかかるだけでなく、データへアクセスできるユーザーが限られてしまい、貴重なデータがブラックボックス化してしまうリスクを孕んでしまいます。

ブロックチェーンの特徴であるピアツーピアでデータを管理する場合、サプライチェーン参加者全員でデータを管理・監視します。巨大なサーバー設備の保守・運用も不要なため、コスト削減の効果も期待できます。

さらに、セクションごとにバラバラだった事務作業のオペレーションを統一することで、輸送時間そのものを短縮することも可能になります。

参考ページ:IBM, Maersk Joint Blockchain Venture to Enhance Global Trade

政府を巻き込んだ実証実験の運用

2019年に入って、TradeLensはサウジアラビア政府を巻き込んだ実証実験に入っています。この取り組みでTradeLensはサウジアラビアの貿易システム『FASAH(ファサー)』にインテグレートされて試験運用されます。

ファサーはサウジアラビアの貿易に関する全ての政府機関と民間企業を結ぶ国家的なプラットフォームです。インテグレートが完了しシステムが上手くワークすれことで、不変性、トレーサビリティ、仲介業者の減少、監督能力、そしてコンプライアンスをより確実にする期待が寄せられます。

サウジアラビアの税関当局の貿易戦略として、貿易の円滑化とセキュリティの強化をミッションにしていますが、ブロックチェーンを取り入れることで世界の物流をリードしサウジアラビアを世界有数の物流拠点に押し上げたい狙いがあるので、まさにWin-Winの実証実験だと言えます。

サウジ税関当局、IBMと海運大手によるブロックチェーン製品『TradeLens』を試験運用

サウジアラビアの税関当局は、IBMと海運大手のMaersk(マースク)が共同開発した物流のブロックチェーンソリューション『TradeLens(トレードレンズ)』を試験運用することを発表した。 トレード … 続きを読む サウジ税関当局、IBMと海運大手によるブロックチェーン製品『TradeLens』を試験運用

世界有数の貿易拠点がネットワークに参加

サウジアラビアだけでなく、スペインの貿易拠点であるアルヘシラスとタリファの港を管理している公共組織『アルヘシラス港湾公社』もTradeLensのネットワークに参加を表明しています。ヨーロッパの中でもトップ6位に入る規模を持っている世界有数の貿易拠点です。

このように、TradeLensはクリティカルマスへのリーチを進めており着実に規模を拡大しています。IBMの公式ブログによると、TradeLensのデータベースにはすでに2億3000万もの商品が登録されており、2000万を超えるコンテナの処理を完了しているとのことです。

今後も主要な貿易拠点や貿易企業との提携を進めてネットワーク参加者を拡大させる計画となっています。

物流におけるブロックチェーンの有用性はこれまでも語られてきましたが、TradeLensほど大規模なインパクトが想定されるプロジェクトが実際に前進している例は稀です。

TradeLensの提供するソリューションや、投資しているリソースは申し分ありませんが、結局プロジェクトの成否を左右するのはエコシステムが構築できるかどうかにかかっています。

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