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1時間で1500万ドル集めた世界最大の仮想通貨取引所「次の一手」

筆者: エミリー・パーカー

 

仮想通貨なきブロックチェーンは誤謬だ

エミリー・パーカー, LONGHASH 

誰でもトークンを公開可能な「新取引所」構想

前回(世界最大の仮想通貨取引所が「日本を拠点にしない」理由)でも触れたように、

世界最大の取引高を誇る仮想通貨取引所バイナンスは、特定の国には縛られない。

これだけでも十分に「非中央集権的」に思えるが、バイナンスのCEOで「CZ」という呼び名で知られる趙長鵬(ジャオ・チャンポン)は、

さらに先の段階に進もうとしている。

バイナンスは、誰でもトークン(仮想通貨)を公開できる非中央集権的な仮想通貨取引所の開発を進めているのだ。

「非中央集権的な取引所こそが未来だ」と、CZは言う。「だがそれが実現するのには、まだ時間がかかる」

この非中央集権的な取引所は、バイナンスの既存の取引所とは別のものになる。

「私たちは、コミュニティと一緒になって、ルールを構築する」と、CZは説明する。

「インフラを動かしたければ、誰でも動かすことができるし、取引や手数料によって相応の報酬も得られる」

 

「資金が集中しないこと」の長所と短所

バイナンスが非中央集権的な取引空間に向かう動きは、大きなトレンドの一環だといえる。

すでに、こうした非中央集権的な取引所はいくつか存在している。

今年はじめに日本の取引所コインチェックから、ハッカーらが5億ドル以上の仮想通貨を盗んだ事件によって、

中央集権的な取引所のセキュリティに対して懸念が高まっている。

中央集権的な取引所は多額の資産を保管するため、盗人を惹きつける存在になっている。

バイナンスもハッカーのターゲットになったことがあるが、同社は攻撃を阻止したと主張している。

非中央集権的な取引所は、こうした問題への対策にもなる。バイナンスの非中央集権的な取引所の場合、ユーザーは資金を預ける必要はない。

つまり取引所側が、顧客の資金を保有しないということだ。これにより、利用者の匿名性はさらに守られるだろう。

人々は単純に、ブロックチェーン上で仮想通貨を相互に交換するだけだ。

だが、非中央集権的な取引所にも欠点があると、CZは言う。手数料が高めになる、というのだ。

理論上、多くのコンピューターが同じコードを実行すればよりコストがかかるからだ。

取引も遅くなるし、中央集権的な取引所と比べて流動性に欠けるだろう。

「非中央集権的なテクノロジーは、中央集権的なものより動きが遅いため、現在取り扱っているような量を処理することはできないだろう。

スピードやパフォーマンスはそのうち向上するはずだ」と、CZは言う。

可能なら「法定通貨も扱いたい」

 

いま仮想通貨の世界で起きる犯罪を規制当局が懸念しているなら、非中央集権的取引所でもそうした違法行為が課題になるように感じられる。

この空間をどうやって規制するのか? 「正直、私にはわからない」と、CZは言う。

「ビットコインが最初に登場したときと同じだ。規制当局の誰もどうしていいかわからなかった」

さらに言えば、非中央集権的な取引空間では、ほぼ価値がない仮想通貨の取引をどう防げばいいのか? 

この問いに対してCZは「どの通貨に価値があるのかを見極めるのは投資家だ」と言い、さらに市場が価格を決めていくことになるだろうと語る。

CZは、従来とはまったく違う方法として、別の極端な計画も用意している。

バイナンスは、ドルやユーロ、人民元などの法定通貨を避けて、仮想通貨同士の交換所として存在してきた。

これによって、バイナンスは地理的な柔軟性を持ち、会社の銀行口座すら持たずに取引することを可能にしてきた。

だがいまでは、「私たちは、可能であれば法定通貨を取り扱いたい。けれども、それは適切に規制された方法で対応したい。

すべての顧客の資金は、(バイナンス内の仮想通貨の口座とは)別に、分離された銀行口座に保管されるだろう」とCZは言う。

つまり、従来の株式市場で使われているやり方だと、彼は主張する。「私たちが法定通貨に手を出すとすれば、そのようなサービスを行うことになる」。

そして、バイナンスはそれを実現すべく動いている。「交渉している銀行や規制当局すべてに、この件についてお願いしている」

CZが見据える「トリプルウィン」

彼が法定通貨を扱いたいと考えるのは、「トリプルウィン」になると信じているからだ。顧客は彼らの資金が安全に銀行に預けられていると安心できる。

当局にしてみれば、資金の流れを規制するのが容易になるだろう。

さらに、銀行は多額の資金を保有できるようになる。法定通貨を取り込むことは、バイナンスの規模をさらに拡大することになるだろう。

CZは、仮想通貨が財産の選択肢を増やし、ICO(新規仮想通貨公開)がそれには不可欠になると考えている。

「ICOは、経済発展の未来にとって必要だ」

仮想通貨に関与していない人の多くにとっては、この感覚はわかり難いだろう。ICOによって、スタートアップ企業は超高速に多額の資金を集めることができるが、

「一攫千金」や「あからさまな詐欺」と結びつける者もいる。

もちろん詐欺もあると、CZは言う。だが彼は、ICOのほうが、ベンチャー投資家の関与するプロジェクトよりも成功の可能性が高いと見ている。

なぜなら、デュー・デリジェンス(適正評価)や取締役会議、条件規定書の処理などを待つことなく、素早く多額の資金を集めることができるからだ。

「私たちを例に挙げてみよう。バイナンスがベンチャーキャピタルからの資金調達を行ったとしたら、最初の資金調達は20万から50万ドルになっただろう。

3~6ヵ月後には、さらに200~300万ドルを手にしたかも知れない。そして1年後には、500~1500万ドルを得ただろう」と、CZは言う。

読者は、こうした資金調達も悪くないように思われるだろう。だがCZに言わせると、

ベンチャーキャピタルに支援されるバイナンスというのは、あり得ないシナリオだった。

ICOによって資金を調達した競合他社につぶされていた可能性が高いからだ。

「頭の中で、何度もシナリオを考えた。もし私たちが従来のようにベンチャーキャピタルからの資金調達をしていたら、

今日のバイナンスとは張り合うことは出来なかっただろう」

1時間で1500万ドルを集めた

バイナンスは2017年6月にICOを行い、2週間で1500万ドル(ビットコインやイーサリアムに相当する)を集めた。

資金調達は5回行われ、毎回10分ほどで終わる。つまり合計すると、バイナンスは約1時間で1500万ドルを集めたことになる、とCZは語る。

彼は、このような超高速の資金調達によって、企業が自社の弱みに対処することができると考えている。

「創業者がテクノロジーにうとければ、超優秀なCTO(最高技術責任者)を雇えばいい」。確かに、そう見るとICOを好意的に解釈できる。

スタートアップ企業は、新たな資産を使ってワールドクラスのCTOを獲得することが可能になる。

だが、仮想通貨の業界で「成功の証」であるとして人気の高いランボルギーニの購入に資金を当てて、姿を消してしまう者もいる、という見方もある。

だがCZは、ベンチャーキャピタルの投資でも同じことが起こりうると指摘する。

「ベンチャー投資家がスタートアップ起業家と共謀して、多額の資金を投資した後に山分けし、両者ともスポーツカーを購入したりと、

よからぬことをしているのを私は見てきた」と、彼は言う。

クラウドソーシングによるICOは、むしろ詐欺に対して強いとCZは言う。

「ベンチャー投資会社1社よりも、1000人を騙すほうが難しい。多くの人がクラウドソーシング、クラウド・デュー・デリジェンス(適性評価)、クラウド・インフォメーション・ソーシング(情報収集)の力を過小評価している。

言い換えると、クラウド(群衆)はベンチャーキャピタルが、時間に余裕がなくて見つけきれない情報を見つけ出すことが出来る」

100以上もの仮想通貨を自身の交換所で扱っているCZには、これまでに新しい通貨を審査する機会がたくさんあった。

彼いわく、仮想通貨のプロジェクトはそれぞれが独自のリスティング手数料を提案するが、支払われる手数料は幅広い。

高額の手数料を支払うと、早く審査してもらえる。

NEOやイーサリアムのような、バイナンスがとくに優れていると評価した仮想通貨は無料で扱ってもらえる。

だが、あまりに多くの通貨が出回っている中で、バイナンスはどのようにデュー・デリジェンス(適性評価)を行っているのだろうか?

「とても厳格なプロセスがある。だが、指針はきわめてシンプルだ」とCZは言う。

「プロジェクトのメンバー、来歴、製品とユーザー数に注目している。彼らが多くのユーザーを持ち、過去の実績があれば、

詐欺をして姿を消す可能性は低い」と彼は言い、「私たちは製品そのものを見たい。コンセプトにはあまり興味がない」と語る。

CZは「結果はついてくる」というが、その主張には一理ある。

5月上旬、LONGHASH社のデーターチームは、バイナンスが取り扱いを始めた当初と比較して、

10%以上価格が下がった仮想通貨は、バイナンスの扱う仮想通貨全体の、わずか16%だけだったことを発見した。

この数字は、世界トップ5の仮想通貨取引所の中で、もっとも低い割合だった。

もちろんCZは、仮想通貨の未来については強気の姿勢だ。投資家のティム・ドレイパーが、2022年までにビットコインが25万ドルに達する

と予測していることを引き合いに出したCZは「私が思うに、あの予測は控えめだ」と言った。

「彼が予測しているより、ずっと早く起こると思う」と語ったCZは、さらにこう付け加えた。

「実際にビットコインは、政府が発行する通貨よりもっと大きなコミュニティに支えられている」

彼はまた、ブロックチェーン技術が仮想通貨とは別の用途で使われることに異議を唱えている。

「非中央集権に賛同するには、仮想通貨という誘因が必要だ。それなしには大勢がタダ働きをすることになり、ボランティア活動になってしまう。他に商業的な利益がない限り、長続きはしない」

と、彼は主張する。

「多くの人が、仮想通貨を推進せずにブロックチェーンを発展させようと考えている。

私に言わせれば、それはコンピューター不在でインターネットを推進したいと言うようなものだ。それは大間違いなのだ」

翻訳:山田敏弘

出展:LONGHASH x 現代ビジネス

 

<本記事ご協力>

LONGHASHは、ブロックチェーン技術の開発と理解を促進するプラットフォームです。

LONGHASH

エミリー・パーカー

エミリー・パーカー

作家・起業家。LongHash Co-founder。過去にThe Wall Street JournalおよびThe New York Timesでスタッフライター・エディター、またアメリカ国務省でポリシーアドバイザー、Silicon Valley start-up Parlio (現:Quora)でチーフストラテジーオフィサーの経験がある。著書"Now I Know Who My Comrades Are: VoicesFrom the Internet Underground."

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