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Vol.3 ビットコイン現物トレード編(海外取引所)

筆者: 岡本 信吾

ここでは海外取引所を使ったケースを解説します。

海外取引所の場合、基本的に日本円の取扱いはないため、基軸通貨はBTCや米ドル、もしくはステーブルコイン(ドルと連動した)仮想通貨であるUSD Tether(USDT)等となります。

最初はとっつきづらいと思いますが、日本の取引所だと購入できないアルトコインも多々あるので、是非慣れておくことをお勧めします。

海外取引所の取引の仕方や買えるコインの詳細は割愛させていただきますが、ここでは税金や会計に関する部分だけにフォーカスして記載していきます。

1. ビットコインを使ってアルトコインを購入した場合

一般的に考えられるのは、海外取引所でアルトコインを購入する場合です。

金融庁の許認可が必要な日本の取引所とは違い、本当にたくさんのアルトコインがあります。

なかには、明らかに「ネタ」としか考えられないようなコインや、時価総額が著しく低い、い わゆる〝草コイン〟と呼ばれるものも存在します。

こういった通貨はほとんどが数年後にはなくなると言われていますが、なかには数百倍〜数千倍にも金額が膨れ上がるものもあり、侮れません

さて、日本人がこのようなコインを購入しようとした場合、直接海外の取引所に日本円を入金し、 購入することはできません。
なぜなら、これらの取引所は海外にあるため、そもそも日本円を受け付けていないからです。

いったん、日本の取引所に口座を開設して日本円を入金し、ビットコインを購入後に、海外取引所へビットコインを送金しアルトコインと交換することになります。

海外の取引所を交えての仮想通貨取引は、税務的には国内取引所編で既に記載した方法の応用で対処することになります。不明な場合は、以下の項目を参考にしてください

では、海外の取引所を交えての仮想通貨取引についてのケーススタディを用意したので、以下で一緒に見ていきましょう。


【ケーススタディ】
2018年8月15日に日本円800,000円をbitFlyerに預け入れ、1BTCを購入した。
2018年8月15日に日本円80万円をbitFlyerに預け入れ、1BTC を購入
2018年8月20日に1BTCを海外取引所Binanceに送金
2018年8月27日に1BTCでアルトコインの$ADA(0・000015BTC/ADA)を購入
なお、このとき、1BTC=100万円だった
(ここでは、理解しやすくするため取引を 単純にし、取引手数料等は考えないものとします)
 

【損益】
基本的に国内の会計処理と変わりはありません。

アルトコイン購入損益は発生しません
ビットコインの売却(交換)購入時と交換時の時価の差額が損益になります

ビットコインの値上がりのうち、アルトコインに交換するなど、「実現した」と考えられる 取引については利益を認識します。

また、今回は複雑になるので省略しましたが、取引所手数 料などが発生している場合には損益を認識することになります。

 

【仕訳】
8月15日
仮想通貨(BTC) 800,000/普通預金(bitFlyer) 800,000

8月20日
仕訳なし

8月15日
仮想通貨(ADA) 1,000,000/仮想通貨(BTC) 800,000
             /仮想通貨評価益 200,000

2. ビットコインをUSDTに避難した場合

ビットコインは価格の変動が非常に大きく、1日で円建てで10%〜20%は普通に値動きをすることもあります。
なので、もし海外取引所にビットコインをそのまま置いておいた場合、ビットコインの枚数は変わっていないのに、円建てでみると資産が20%減っていたなんてこともあります。怖い限りです。

もしこれが国内の取引所だったなら、ビットコインを円に換えて、価値の暴落を避ければいいのです。
暴落前に日本円に換えておき、暴落して安くなったビットコインを再度買う、という方法で資産の損失を抑えることができます。

一方の海外取引所では、日本円の取扱いがありません。価値の暴落を乗り切るために円に避難することはできません。

でも、円に両替したのと同じくらい効果がある「避難方法」があり ます。それが、USD Tether(USDT)と呼ばれる仮想通貨を利用する方法です。

USDTは法定通貨(米ドル)とほとんど連動した値動きをするため、ビットコインの暴落を避けることができるのです。

こういった法定通貨と連動した動きをする仮想通貨のことを「ステーブルコイン」と言います。

それでは、ビットコインをUSDTなどのステーブルコインに交換した場合はどうなるので しょうか。アルトコインと同じように処理するのか、法定通貨のように処理するのか、会計処理について検討の余地が生じます。

結論は次のとおりです。ステーブルコインと言っても、ドルや日本円のような法定通貨その ものではなく、会計上はアルトコインの一種とみなされます。

ですので、Vol.2 1.ビットコインを日本円で購入した場合で説明したアルトコインの会計処理と同様の会計処理になると考えられます。

3. 複数に分けて購入したアルトコインを売却した場合

さて、このケースがとっても複雑になりがちです。
そしてこのケースが一番多いと思います。 実例を混ぜて書いていきます。

リップル(XRP)を購入した場合について解説します。

【ケーススタディ】
8月1日に10000xrp購入した(0.000048BTC)
8月8日に5000xrp売却した(0.000060BTC)
8月15日に15000xrp購入した(0.000052BTC)
8月24日に全てのXRP(20000xrp)を売却した(0.000065BTC)

なお、BTC価格は円建てで
8月1日 500,000円
8月8日 600,000円
8月15日 550,000円
8月24日 650,000円

【説明】
前回お話した通り、仮想通貨を売却した場合の原価の計算方法には「移動平均法」「総平均法」 のふたつがあります

いずれを取るかによって利益の金額が変わってきますので、両方のパターンについて書いていきたいと思います。
まずはまとめの表をみてください。

購入日購入数
(XRP)
売却数
(XRP)
残数
(XRP)
XRP単価
(対BTC)
BTC単価
(対円)
実現損益
(移動)
実現損益
(総平)
8月1日10,000 10,0000.000048500,000--
8月8日 5,0005,0000.000060600,00060,000
*1

46,200
*3

8月15日15,000 20,0000.000052550,000--
8月24日 20,00000.000065650,000296,000
*2

309,800
*4

合計     356,000356,000


【移動平均法】
*1
売却金額 5,000XRP × 0.00006XRP/BTC × 600,000円/BTC = 180,000円
取得原価 10,000XRP × (5,000/10,000) × 0.000048XRP/BTC × 500,000円/BTC = 120,000円
差額利益 180,000円 - 120,000円 = 60,000円

*2
売却金額 20,000XRP × 0.000065XRP/BTC × 650,000円/BTC = 845,000円
取得原価 10,000XRP × (5,000/10,000) × 0.000048XRP/BTC × 500,000円 +15,000XRP × 0.000052XRP/BTC × 550,000円/BTC = 549,000円
差額利益 845,000円 - 549,000円 = 296,000円


【移動平均法】
XRP払出単価(10,000XRP × 0.000048XRP/BTC × 550,000円/BTC + 15,000XRP × 0.000052XRP/BTC) ÷  (10,000XRP + 15,000XRP)=26.76円/XRP
※1年間のリップルの購入金額を算出し、それをリップルの総購入数で割ることで、1XRPあたりの平均購入単価を計算します。

*3
売却金額 5,000XRP × 0.00006XRP/BTC × 600,000円/BTC = 180,000円
取得原価 5,000XRP × 26.76円/XRP = 133,800円
差額利益 180,000円 - 133,800円 = 46,200円

*4
売却金額 20,000XRP × 0.000065XRP/BTC × 650,000円/BTC = 845,000円
取得原価 20,000XRP × 26.76円/XRP = 535,200円
差額利益 845,000円 - 535,200円 = 309,800円

以上のようになります。

今は、このような計算もできるCryptactやMFクラウドなどといった便利な会計ソフトもありますので、使ってみるといいかもしれません。

前述の「国内取引所編」で、「移動平均法」と「総平均法」は利益の払出し時点のズレがあるだけで、全体でみれば利益は同じと述べましたが、海外取引所編でも同様の結果となっていることがわかります。

4. 海外取引所で得た利益をBTC(USDT)のまま保管している場合、申告が必要?

仮想通貨取引で得られた利益を、日本円にしないで、BTCやUSDTのまま海外取引所で置いたままにしている方は、かなりいるのではないでしょうか?

この場合、日本円にしていないけれども、ビットコインやUSDTの枚数は増えているとい う意味では利益は確定してしまっています。

では、BTC建てやUSDT建てで利益が出ているが日本円にしていない場合、確定申告を して税金を払う必要があるでしょうか?

この疑問を解消するためには、まず日本の税金に対 する考え方を理解する必要があります。
課税の考え方は、その国の歴史や方針によって異なりますが、日本の場合は「全世界所得基 準」という考え方を採用しています。

ここで「全世界所得基準」とは、簡単に説明すると、日本に住んでいれば日本で税金がかか るし、日本に住んでいなければ日本で税金はかからない、ということです(もちろん、本当はもっ と複雑です)。
ですので、日本に住んでいる限り、取引所の場所がエジプトにあろうが、シン ガポールにあろうが、日本で税金がかかってしまうということなのです。

たとえばBinanceでいうとマルタ共和国、Bittrexでいうとアメリカ合衆国が本店所在国んなりますが、日本に住んでいる限りは取引所で得た利益は日本で申告し、納税する必要があります。
ですので、海外取引所で得た利益をBTC(USDT)のまま保管しており、円にしていない場合であって、税務申告が必要ということになります。

5. 仮想通貨と仮想通貨の交換

保有する仮想通貨を他の仮想通貨を購入する際の決済に使用した場合、その使用時点での他 の仮想通貨の時価(購入価額)と保有する仮想通貨の取得価額との差額が、所得金額となります。

ざっくり説明すると、アルトコインを安く購入し高く売り抜けた際に発生した利益は、所得と なり課税の対象になる、ということです。

海外取引所でアルトコイン→最終ビットコインに戻し た場合も該当するので「税金は納めなければならない」ということになります。

この場合の税金は、 日本の役所に対して納めるので、当然ですが円で税金を計算して納めることになります。

ここまでの結論としては、「海外取引所で利益が出た場合は、たとえ円にしていないとしても、円換算して税務署に納税する必要がある」ということです。

なお、2018年3月は確定申告前にビットコインが大きく下落しました。

これは、海外取 引所における利益(ビットコイン)はあるけれども日本円がないため、税金を支払うためにビッ トコインが大量に売られたので暴落した、いわゆる「納税売り」との説もあります。

6. 海外取引所で得た利益を円に円換算する場合にどの取引所を使ったらいいの?

税務署に提出する確定申告書類の金額欄は、当然、すべて日本円で記載します。

「BTC建てで確定申告書を作成したので提出します、今年の利益は0.85BTCです」 と、申告書を提出すれば、すぐに税務署員が来るでしょう。

日本のお役所に提出する書類で金額を記載する場合、よほどの事情がない限りすべて円建てで記載するのが常識です。

では、ここで当然の疑問が出てきますよね。稼いだBTCの 利益は、「いつの時点の」「どこの取引所のレートで」換算した らいいか、ということです。
ビットコインの価格は取引所によって変わってきます。

まずは、2018年10月7日時点での各取引所の価格を参照してください。
 

<2018年10月7日時点の価格>

取引所名称BTC金額(円)
BTCBOX746,926
bitFlyer747,443
CoinCheck747,840
bitbank747,950

およそどの取引所でも74万7000円付近の金額となっていますが、若干上下しています。

表では、BTCBOXが一番安く、bitbankが一番高くなっています。

この状態を「価格差が生じている状態」と言います。

既に気づいたかもしれませんが、この状態で、BTCBOX で1BTCを購入し、
同時にbitbankで1BTCを売却すれば、どうでしょう?なんと、ノーリスクで1000円の利幅が取れることになるのです。

これを「裁定取引(アービトラージ)」 と呼んでいますが、実は、こういった価格差を使って儲けている人もかなりいるようです。

実際には、価格差がなるべく大きく開かないと利幅も出ないので、 タイミングのよさと豊富な資金量がないと、しっかり儲けるということは難しいと思います。

では、上記のどの取引所のレートを使えばいいか、ですが、現在は、

  • ①実際に円に換算したことがある場合には、円転した取引所のレートを使用する
  • ② 円に換算していない場合は、普段メインで使っている取引所のレートを継続して使用する

という判断がいいと思います。

①の円換算した場合は、実際に円ベースで利益が確定しているため議論の余地はないですが、 問題はBTCのまま海外取引所に入ったままになっている②のような場合に使うレートです。

実は税務署としても、これは困っているところです。
一企業、それも新興の企業が出しているビットコインのレートで、税収が変わってしまうことになりますから。

そのレートが正しいかどうかも検証することは難しい。ただ、どれかを使わないと申告することはできません。

ただ、税務署としては、意図的に有利なレートを選んで申告されてしまうことは避けたいと感じているはずです。

たとえば、2017年はbitFlyerのレートを使い、2018年はZaifのレー トを使う(その結果税金が少なく算出される)などです。

そうすると、意図的な価格調整ができないように、継続して同じ取引所のレートを使用しておけば、
税務署も「脱税の意図なし」と考えてくれやすくなると思います。
 

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岡本 信吾

岡本 信吾

公認会計士・税理士、仮想通貨投資家。税理士法人小山・ミカタパートナーズ 代表社員。 仮想通貨税務に強い税理士として、個人事業主から法人まで広く税務知識の普及を行っている。

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