人民元安とともにビットコインが上昇した先週。
現在、人民元を売ってビットコインを買うという取引所は存在しませんが、相対取引の状況やテザーの売買の多くを人民元のペッグ通貨であるQCであることを見ると、そこから資金が流入していることを疑わざるを得ません。
今回は、仮想通貨とかかわりの深い中国と仮想通貨の変遷をたどります。
草創期
2013年11月16日、香港金融管理局(HKMA) の最高責任者であるノーマン・チャン氏は、ビットコインは仮想的商品であると発言。また、HKMAはビットコインを規制しないともしました。
12月5日には中国人民銀行は全ての金融機関によるビットコイン取り扱い禁止を発表。公的金融機関および決済機関はビットコインに値段を付けたり、売買したり、ビットコイン関連商品に対する保険を販売してはならないとする声明を発表しました。
この時、個人間のビットコイン取引は合法とされたものの、取引所への規制を行う計画だとしていました。
翌年の4月中旬には、国有商業銀行大手がビットコインを扱う取引所の口座を閉鎖し始めたそうです。
成長期
次に動きがあったのは、2016年です。
2015年から進んでいた人民元安が2016年に加速。日本円にして18円台後半から15円割れまで進みました。ドル円で考えると、20円近く元安が進んだことになりますので、そのインパクトは相当だったといえます。
この年の7月にビットコインの半減期があり、じわじわとビットコインの知名度が向上。年末に入ると、中国人がせっせとビットコインを買う動きがあったことが国別の取引高ではっきりと分かります。
出所:Bitcoin日本語情報サイト
2017年1月6日、中国人民銀行は当時中国三大取引所のOKCoinとHuobi、BTCC(BTC China)の経営者と面談を実施。ビットコイン取引に関する法的リスクなどが存在しうる旨を示唆し、コンプライアンス順守に関する自主検査を要請しました。11日には、主要取引所に対して市場操作・マネーロンダリング・顧客資産の安全性の評価に問題がないか調査するため、立ち入り検査を実施。
2月8日には取引所に対し、外国為替管理とマネロン規定に抵触する取引所を閉鎖することになると勧告。翌日には、OKCoin、Huobi、BTCCが、この要請に応えて、ビットコインの引き出しを停止すると発表するに至りました。この引き出し停止期間は、当初1カ月程度とされていましたが、実際に引き出し停止が解除されたのは4カ月後の6月2日でした。
これにより、世界的にビットコインの取引高は100分の1以下へと減少することになりました。このように、世界的に分散したビットコインの現在は中国があってこそのものであったということです。
しかし、ICOを巡り仮想通貨関連詐欺が横行。アルパカ標準人工知能という理解できないものや、ICOの主催者が、投資家の信頼を得るために、ジョージ・W・ブッシュ氏にバラク・オバマ氏、そしてヒラリー・クリントン氏と握手をしている写真などをプロジェクトの公式ページに掲載したりしました。
※後に後者のICOは出資金詐欺と分かり、約20億人民元(約340億円)相当額の詐欺容疑で、60人の従業員とともに逮捕されたそうです。
その結果、9月13日に中国インターネット金融協会(NIFA)が仮想通貨に対する警告を発表。15日に中国人民銀行は、国内の取引所に対して全面的に操業を停止するように通告しました。
◇主な通告内容
- ①すべての取引所は9月20日18時までに債権債務を適切に処理し、顧客資金や仮想通貨の安全を確保するよう詳細な清算計画を定め当局に通知すること
- ②すべての取引所は顧客の資金を保全するために9月20日までに新たな銀行口座を開設すること
- ③9月15日24時までに仮想通貨取引の停止日と新規利用客の登録を直ちに停止する旨を告知すること
これを受けて、BTCCは9月末に取引を全面停止すること、HuobiとOKCoinは10月末に仮想通貨と人民元との取引を停止すること(仮想通貨同士の取引は可)を、それぞれ発表。これで中国主導のビットコイン相場は幕を閉じることとなりました。
その後10月4日には、新華社通信が中国政府は厳格な本人確認システムとアンチマネロンシステムを導入した上で、民間取引所における仮想通貨取引を再開する方針を示したと報じましたが、いまだに再開には至っていません。
なお新華社通信によると、中国で行われたICOでは、2017年上半期に10万5000人の投資家から3億8300万ドル(約400億円)を調達したと報じています。
成熟期
2018年1月になると、今度はマイニングの規制が相次いで報じられました。中国はマイニングの大半を占めることから、市場にショックが走ったことは言うまでもありません。
同月16日には、中国人民銀行の潘功勝副行長が、取引所での取引や関連サービスを禁止すべきとの見解を示すと同時に、中国人ユーザー向けに仮想通貨取引サービスを提供する国内外のウェブサイトやアプリを遮断し、仮想通貨決済サービスを手掛けるプラットフォームに制裁を科すべきとの考えを示しました。
また同月26日には、NIFAが海外ICOと仮想通貨取引の参加について警告を発表。さらに、国内の店頭取引についても現在の規制を順守していないと指摘しました。このころは、WeChatなどでの仮想通貨の相対取引が流行し始めたそうです。
2018年5月ごろには、バイナンスやHuobiのような取引プラットフォームを含む110のウェブサイトがブロック。中国から海外の取引所へのアクセス制限が行われました。
現在では、先日「中国でビットコインが資産として認められる?」で書いたように、 CNY(人民元)→QC→仮想通貨(ビットコイン、テザーなど) という流れで人民元から仮想通貨へ資金が流入しているようです。
OKEXの相対取引ページでは、今日も盛んに売買がされているようで、一つの価格帯にざっと30BTCを買える規模のUSDTの買い並んでいます。
参考:OKEx
参考:https://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2017/DP2017-7.pdf
中国の取引所の現在
では取引が停止された中国の取引所は現在どうなっているのでしょうか。
かつての中国三大取引所は、今は全て海外へと拠点を移しています。
BTCCは2018年1月に香港のブロックチェーン投資ファンドに買収され、同年7月には取引を再開。
OKCoinは、BTC先物を取り扱うOKCoin.comを残し、OKCoin.cnを閉鎖。海外の投資家向けにOKExを展開しており、主要仮想通貨の取引高は世界トップクラス。ライトコインの取引高はバイナンスを上回っています。
HuobiはHuobi Globalとなり、日本への進出。ビットトレードを買収し、フォビジャパンとしてライセンスを取り営業しています。
これらの取引所で中国人は全く取引していないのかというと、その可能性は低いでしょう。某大手取引所の関係者によると、ユーザーの半数は中国人であると話していました。
仮想通貨の取引所はAPIを公開しているところがほとんどで、コインマーケットキャップやコインヒルズを見れば、どこの取引所で、どの通貨やどの法定通貨で売買されているか可視化されています。
出所:coinhills
しかし、中国の相対取引や、中国からのアクセスを遮断していない取引所などでの売買が仮想通貨市場を支えていると言えそうです。
かつては日本のbitFlyerが圧倒的な売買高を誇り、BitMEXを凌ぎ世界トップの取引高を誇っていました。しかし、レバレッジが4倍に引き下げられた影響もあり取引高は大きく減少。主役の座を米国に渡す結果となりました。
かつて仮想通貨で注目を浴びた国は、強列な規制やハッキング事件で首位の座を明け渡す流れとなっています。しかし、その国のユーザーは他の国の取引所を利用するようになっており、規制が厳しくなったうえにユーザーの多くを失うというやるせない状況になっていると言わざるを得ません。
最近では、取引量トップのBitMEX(香港拠点)にも、米国人ユーザーに取引をさせた疑いが掛かっており、首位を取ると叩かれるというのは仮想通貨業界のジングスのように感じてしまいます。
投資家資産の保護と共に、取引所も安心して運営できるような技術の発展や法律の整備が急務となるでしょう。
まとめ
- ・かつては中国人が仮想通貨の取引の大半を占めていた
- ・2017年1月より、規制が入り取引高は大きく減少
- ・中国人はWeChatなどでの相対取引を行っており、海外の取引所も利用している
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※本記事の意見や予測は、筆者の個人的な見解であり、金融商品の売買を推奨を行うものではありません。
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