仮想通貨市場は今年の4月以降大きく上昇しました。
例えば、4月時点のビットコインの価格は40万円程度でしたが、6月末には約4倍となる150万円まで上昇。記事執筆時点の8月末の時点でも105万円程度で推移しています。
◇ビットコイン(BTC/JPY)週足チャート
ビットコインは仮想通貨における基軸通貨であり、比較的値動きが安定していることを鑑みると、驚くべき上昇率です。
それに伴い仮想通貨交換業者の収益も向上し、2018年は赤字だった業者も黒字化しています。
これには仮想通貨の価格上昇による新規マネーの流入はもちろん、以前に仮想通貨の取引を行っていた株式やFXの取引を行う投資家が一斉に戻ってくるという資金シフトがあったようです。
仮想通貨の価格が上がることはもちろん、値動きがあり取引高が伸びれば伸びるほど交換業者の売上がアップすることは、株式やFXと同じビジネス構造のようですね。
2018年末には価格の急落で注目度が集まりましたが、やはり上昇した方が口座数は増加しやすいようです。
今回は主要取引所の決算状況を確認しつつ、その要因と今後の見通しを考えていきます。
1.2019年に国内取引所の多くが黒字転換
仮想通貨の価格急騰により、5、6月には交換業者の口座数の伸びが急激であったことが話題になりました。
出所:GMOフィナンシャルHD 売買代金単位:百万円
また、コインチェックでモナコインの取り扱いもあり、今後も新しいサービスや制度が整えられると予想され、仮想通貨市場はさらに拡大していくと予想できます。
参考:コインチェックがモナコイン / $MONA の取扱いを6月上旬に開始!
GMOコインの2019年第2四半期決算では、赤字であった第1四半期と比較すると売上高は約2倍、利益は四半期で過去最高を記録しています。
マネックス傘下のコインチェックも4-6月の決算を公表していますが、四半期では初の黒字となり1.4億円の利益に。アプリダウンロード数は250万を突破し、顧客預かり資産は1136億円となっています。
セキュリティー施策では、ホットウォレットで保管する資産上限を足元25億円まで絞り、リスクを低減したとなっています。
預かり資産の3%程度であることを考えると、かなり絞っていることが分かりますね。ちなみに、業界団体の規定されているホットウォレットに入れる資産は全体の20%までとなっています。
主要交換業者の昨年度決算状況
開示されている限りの情報を見ていきましょう。
ビットフライヤー(bitFlyer)
売上:140億8500万円
経常利益:48億9400万円
純利益:21億4600万円
期間:2018年4月~2019年3月
出所:計算書類(第5期)
※2018年の6月より、金融庁から業務改善命令を受け2019年7月3日まで新規の会員登録を停止していました。
SBIバーチャル・カレンシーズ
売上高:21億7700万円
経常利益:4億8500万円
純利益:2億6800万円
期間:2018年4月~2019年3月
出所:第3期事業報告
GMOコイン
売上高:40億1700万円
経常利益:7億1100万円
純利益:5億1900万円
期間:2018年1月~2018年12月
コインチェック(Coincheck)
売上高:21億1500万円
経常損失:26億4000万円
純損失:27億4300万円
期間:2018年4月~2019年3月
出所:貸借対照表、損益計算書
ビットバンク(bitbank)
営業損失:32億3900万円
経常損失:32億3600万円
純損失:25億3700万円
期間:2018年1月~2018年12月
出所:計算書類
DMM Bitcoin
売上高:50億6800万円
経常利益:9億6800万円
純利益:7億6100万円
期間:2018年4月~2019年3月
出所:DMM Bitcoin 事業報告書[平成31年3月期]
考察
それぞれの交換業者の数字を見ていくと、その結果に驚かれた人も多いのではないでしょうか。
やはり一番収益を挙げていたのは、レバレッジ取引でグローバルでも上位に入っていたビットフライヤーでしたが、リップル(XRP)の取引高で2018年に世界上位に入っていたビットバンクが大きな赤字となっています。リップルの自社保有分の売買で損失を被ったのではないでしょうか。
一方、通貨ペアが一番少なく、サービス開始時期が遅かったSBIバーチャル・カレンシーズは黒字となっています。ソフトバンクの孫正義氏がビットコインで150億円程度損失を出したというニュースがありましたが、同じソフトバンク系列であるSBIバーチャル・カレンシーズで同氏が売買したのではないかと勘繰ってしまいますね。
DMMはレバレッジ取引に特化していることから、交換業者の主な収益源はレバレッジ取引と言えそうです。
2.グローバルでみる日本の仮想通貨市場
現在、日本の仮想通貨市況は落ち着いており、Googleトレンドを見ても盛り上がり一巡という結果になっています。
6月の盛り上がりは過去1年で最大でしたが、現在は最低水準にまで落ち込んでいる状況です。
仮想通市場のユーザー数に目を向けてみると、米国が最も影響を持っていることがわかります。
例えば、ビットコインの取引高の半数はドル建てによる取引です。
しかし、日本人ユーザーは仮想通貨市場において重要視されており、日本円での取引高は20%以上を占めていて、以前として仮想通貨に対して強い関心があることがわかります。海外取引所でUSDTなどのステーブルコインにしている人も多いことから、日本人の取比率はもっと大きいのかもしれません。
日本では投機対象として見られている仮想通貨ですが、米国では運用対象であり、イエール大学やハーバード大学などの大学基金が投資を行っています。
参考:Yale大学に続き、ハーバード、スタンフォード、MIT等も仮想通貨投資へ
2019年に入り、機関投資家による仮想通貨への投資は増え続けており、シカゴ・マーカンタイル取引所のビットコイン先物の取引高は過去最高を記録。フィデリティインベストメントが機関投資家に行った調査によると、22%がすでに仮想通貨への投資を実行しており、今後の投資についても前向きだそうです。
出所: Fidelity Investments
また同社がビジネスパーソンに行った調査でも、仮想通貨への投資を手掛ける人が6.7%となっています。
3月に日銀が行った調査によると、過去に仮想通貨を入手したことのある人は7.8%ほどとなっており、これら2つの調査結果から2017年のピークで仮想通貨への投資を終えた人は意外と少なく、継続して投資を行っている人が多いようです。
暗号資産という名称変更となる予定であることから、仮想通貨への投資は資産運用といえるのかもしれませんが、以前よりも投機・ギャンブルという印象ではなくなったと筆者は感じています。
同じく日銀の調査(期待収益率5%の投資に対する態度の違い)を見ると、仮想通貨への投資意欲が驚くほど高いことが分かります。
今は仮想通貨への興味関心が後退していますが、少し値動きが出てくると、また今年の春のような盛り上がりが訪れるかもしれませんね。
3.交換業者は新事業の展開へ
仮想通貨市場は回復傾向にあることに加え、新規ユーザーも順調に増加しつつあります。また、上述したように機関投資家からの注目も集めており、今後バイナンスのIEOなどのような優れたサービスが展開された場合には仮想通貨市場はさらに盛り上がりを見せる可能性が高いでしょう。
国内でも新しい動きが加速しつつあります。
例えば、今年7月に新規ユーザーの登録を再開したビットフライヤーは、電子マネーであるTポイントとの提携を発表し、電子マネーユーザーと仮想通貨ユーザー両方に対して、仮想通貨決済によるTポイントの付与するなどの新しいアプローチを行っていきます。
参考:Tポイントでビットコイン購入可能に ビットフライヤーがサービス開始
また8月22日にコインチェックは、海外で人気のあるIEOを検討していることを発表しました。
参考:国内取引所のコインチェック、IEO事業の検討開始を発表
IEOは仮想通貨取引所が審査をおこなったうえで、仮想通貨取引所のユーザーに対してトークンの販売を行うものです。既に、フォビやバイナンスなどではIEOが実施されており、新規ユーザーの取り込みや取引所の利益つながることが分かっています。
特に、IEOの内容によっては海外のユーザーもcoincheckを利用してトークンを購入できるようになる点は大きなメリットになります。
これは国内の仮想通貨取引所では初の試みであり、金融庁や業界団体がどういったルールを加えるのかは不明です。しかし、国内で取り扱う仮想通貨が増加するとは、モナコインの例もあり仮想通貨市場の活性化につながることが予想されます。
4.まとめ
仮想通貨交換業者の利益は、市場によって大きく左右されています。
2018年は金融庁からの行政処分が出される業者が多いなか、ようやく業界団体が認定。セキュリティー対策の強化をメインに、運営基盤を整えるために設備投資を行った1年でした。2019年は体制を整え、新規通貨の追加や電子マネーとの連携など新しいアプローチを加えながら、新規顧客の増加や盤石な基盤を作ることに力を入れています。
取引所の黒字化によりサービスが向上し、プロモーション強化でユーザーが増加。そして、取引が活性化し利益が増えサービスが向上するという好循環期になっているのではないでしょうか。
それでもレバレッジの引き下げにより、ユーザーの多くが海外取引所を使うようになり、国内取引所の出来高は随分と落ち込んでしまっています。今後は、海外での新しいサービスが日本で実施できるかどうかで、我が国の仮想通貨業界が世界から取り残されるのか追いつけるのか大きく変わってくるのではないでしょうか。
編集・加筆:児山 将
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※本記事の意見や予測は、筆者の個人的な見解であり、金融商品の売買を推奨を行うものではありません。
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