2-1.法人に対する課税
法人には、主にその所得金額(計算方法は後述)に応じて、次の6種類の税金が課されます。
資本金1,000万円以下、従業員50人以下の法人の場合の各種税率もしくは税金は表のとおりです。
ただし、この税率は2018年3月末以前に開始する事業年度の決算に適用されるものです。
また、法人住民税(法人税割額)は標準税率(後述)12.9%を基に算定しています。
①法人税
法人税は、所得金額に税率を掛けて計算される国税です。所得金額がマイナスであれば、法人税はかかりません。
なお、年800万円超の金額にかかる税率は、2018年4月1日以降開始する事業年度から23.20%にわずかながら引き下げられます。
②地方法人税
地方法人税は、地方交付税の財源を確保するために2014年度の税制改正で設けられました。
地方法人税は、法人税に4.4%を掛けた金額となります。
③④法人住民税
法人住民税は、都道府県と市区町村に納付する税金です。
法人住民税には「法人税割額」と「均等割額」の2種類があり、納付する地域によっては税率が異なります。
法律では、標準税率(最低)と制限税率(最高)の範囲内で各自治体が自由に税率を決められます。
法人税割額は、法人税を基礎に12.9(標準税率)~16.3%(制限税率)を掛けた金額となります。
ただし、課税所得がマイナスであれば、法人税がかかりませんから、この法人税割額も同じくかかりません。
ところが、均等割額は課税所得がマイナスであっても必ず納付しなければなりません。
これは法人化のデメリットのひとつに挙げられます。均等割額は7万円が最低で、都道府県市町村によっては、これより多くなります。
⑤⑥事業税と地方法人特別税
事業税と地方法人特別税は、都道府県に納付します。この法人事業税は、合算すると課税所得の区分に応じて4.89~9.59%を掛けて計算します。
したがって、課税所得がマイナスであれば、法人税と同じく、この法人事業税もかかりません。
法人税の表面税率
資本金1億円以下の法人を前提とした場合、
①法人税+②地方法人税+③法人税割額+⑤事業税+⑥法人特別税の税率を加味して求めた税率は、次のとおりになります(なお、法人税割額は標準税率12.9%を基に算定しています)。
この税率を「表面税率」といいます。
つまり資本金1億円以下の法人が納める税金は、この表面税率に基づいて計算すればよいわけです。
ただし繰り返しますが、④均等割額は、これとは別に必ず納付しなければなりません。
法人税の実効税率
法人の所得金額を計算するとき、①法人税と②地方法人税、③④法人住民税は「損金」に算入できません。
一方、⑤事業税と⑥法人特別税(以下⑤と⑥を「事業税等」と総称します)は損金に算入できます。
「損金」は法人税法で経費と認められるものです。なお、会計上で計上される費用とは、意味合いが少々異なります。
会計上の費用が必ずしも法人税法上の損金(経費)と同額となるわけではないからです。
例えば、会社が費用計上する罰金や役員賞与、交際費などは、そのすべてが損金となりません。
これらは支出の内容に応じて、全額または一部が損金とならない場合があります。
したがって、会計で費用計上できるかではなく、「損金計上」ができて初めて節税の効果が表れるのです。
さて、事業税等は税金でありながら損金となりますから、実質的な税負担を下げることができます。
この特性を考慮に入れて算出した法人税の税率を「実効税率」といいます。
実効税率は次のとおりです(法人割額は標準税率12.3%を基に算定しています)。
例えば、資本金1億円以下の法人について、法人税率をすべて加算した場合、表面税率は年800万円超の部分では37.04%となります。
しかし、事業税等を当期の損金に算入されたものとして計算すると、年800万円超の部分の金額では33.80%になるのです。
当期の事業税等が損金に算入されるのは、実際に納付した翌期になります。
また、当期の法人税額が20万円を超えると、翌期の6カ月経過後2カ月以内に中間申告と納付をしなければなりません。
したがって、翌期中の中間納付を含めて納税した事業税等が、翌期の損金に算入されます。
例えば、法人設立第1期の事業税等が40万8,100円で確定すると、これを第2期中に納付することになります。
さらに、この40万8,100円の2分の1の20万4,000円を第2期の中間納付額として納めなければなりません(端数調整の関係で正確には2分の1とはなりません)。
したがって、第2期に納付した前期事業税等の40万8,100円と当期中間納付額20万4,000円の合計61万2,100円が第2期の損金に算入されるわけです。
法人所得の税額計算例
法人にかかる税金を計算するには、まず法人の「所得金額」を計算しなければなりません。「損益計算書」の当期利益から税務上必要な「調整計算」をして出します。
損益計算書とは、法人が作成すべき決算書のひとつで、法人の収益と費用の状況をまとめたものです。
会計処理や決算書は、会計事務所に依頼しなくても、会計ソフトを使用して自分で作成することもできますが、仮想通貨トレードの処理は煩雑なため、費用は掛かりますが、専門家である税理士に依頼されるほうが無難でしょう。
通常、法人の会計処理と決算処理は、税務上問題がないように行うのが基本です。
そのため、仮想通貨トレード法人でも損益計算書の当期利益から法人税の所得金額をわりと簡単に求めることができます。
例えば、仮想通貨トレード法人の損益計算書が次のような場合で考えてみましょう。
なお、交際費が800万円以下の場合、交際費は全額損金算入できます。
また、法人税等は損金不算入ですが、納付済の事業税等は損金算入できます。
したがって、所得金額の計算は次のようになります。
仮想通貨トレード法人の場合、調整計算の対象になるのは上の2項目だけとなることがほとんどです。
したがって、法人にかかる税金は次のように計算されます。
これで、法人の所得金額の計算方法や、それに対してかかる法人税等の計算方法の概略がお分かりいただけたかと思います。
法人の所得金額275万円は、損益計算書の税引前当期利益300万円とも当期利益215万円とも異なります。
なお、法人の所得金額は、次のように計算することも可能です。
法人が個人よりも節税となる所得水準とは
個人の仮想通貨トレードの所得は「雑所得」として総合課税になりますが、個人の所得税は7段階の累進課税です。
一方、法人税の実効税率は、①年400万円以下、②年400万円超800万円以下、③800万円超の3段階で税率が高くなります。
ここで、単純に課税所得だけで、個人課税と法人課税の税負担の相関関係を考察してみることにします。
となり、課税所得が400万円以下では法人より個人の税負担のほうが少なくなります。
課税所得が400万円の場合は個人の税負担のほうが少なく、課税所得800万円では法人の税負担が少ないということは、この中間の課税所得に個人と法人の税負担が同額となる課税所得があるということです。
その課税所得は、699万円になります。
つまり、課税所得が699万円以下であれば、個人の税負担のほうが低くなり、逆に課税所得が699万円以上であれば、法人の税負担のほうが低くなるということです。
ただし、これは個人と法人の課税所得に対する税負担を単純に比較したもので、個人の収入から必要経費や所得控除を差し引いて課税所得を計算するプロセスと法人の収益から経費を差し引いて課税所得を計算するプロセスの相違が、個人と法人の課税所得に大きく影響することは忘れないでください。
著者:柴崎照久 / 木村健太
「仮想通貨トレード法人の設立と節税 ~個人投資家のための起業 A to Z」
パンローリング株式会社、2018年10月、60~68ページ
仮想通貨トレードの個人投資家のための法人化の手引き
本書は、仮想通貨トレード法人の、設立手順からメリット、デメリット、設立後の運用、節税方法まで網羅的に解説。
初歩的・不可欠な情報を提供し、個人投資家が法人化を検討する際の疑問や不安を解消する手引書です。
<目次>