3-2.会社設立にあたって
合同会社設立にあたって、まず次のことを決めておかなければなりません。
これらを決定するためのポイントについて紹介しましょう。
商号
商号とは、営業上使用する名称のことです。自分の気に入った商号を自由に決めることができます。
ただし、名称には必ず「合同会社」を入れなければなりません。
商号の登記には日本文字以外にローマ字やアラビア数字などの符号を用いることができるようになってから、商号に特にローマ字を使うケースが目立って多くなりました。
ただし、商号を決めるとき、ローマ字の単語同士の間はスペースを空けられますが、合同会社の前後は空けることはできません。
例えば「合同会社 BITCOIN TRADER」という表記はできません。
この場合は「合同会社BITCOIN TRADER」となります。
商業登記法では「商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない」とされました(商業登記法27条)。
以上のルールに従えば、本店の所在場所が「4丁目1番23号」と「4丁目1番23号A号室」の場合は、同一本店とみなされ、登記できません。
しかし「4丁目1番23号A号室」と「4丁目1番23号B号室」ならば、登記できることになります。
また、本店の所在場所が同一であっても、A株式会社とA合同会社の場合は、会社の種類も商号の一部であるとされているので、登記できることになります。
目的
目的とはこれから法人が営む事業内容です。もちろん登記事項でもあります。
仮想通貨トレードをする場合は「仮想通貨の売買」と事業目的に記載したいところですが、この「仮想通貨の売買」と記載した場合、仮想通貨交換業をすると誤解される可能性があります(仮想通貨交換業は株式会社しかすることができません)ので、「有価証券の売買」や「外国為替証拠金取引」などと別の事業目的を記載します。
例えば「有価証券の売買」としか記載しなかった場合でも、仮想通貨の売買ができないというわけではありません。
通常は、事業目的の最後に「前(各)号に附帯または関連する一切の事業」という文言を入れます。
したがって、事業目的に書かなかったとしても仮想通貨の売買ができないということはありません。
会社の経費も業種によってある程度経費の種類というものは決まってくるため、幅広い事業内容を想定することによって経費の範囲を広げることができます。
もちろん、それらの開業準備費用も経費となります。
ですから、現在は仮想通貨の売買しか予定がない場合でも、定款に記載する事業目的については将来する可能性のある事業をあらかじめ記載しておくことをおすすめします。
せっかくですから、何か自分にできそうな商売、自分の特技を生かした商売、ホームページの企画・制作、インターネット通販、各種コンサルティングなどを、できるだけ事業目的に記載しておきましょう。
「会社 目的 検索」などでネット検索すると事業目的を検索できるデータベースサイトが多く見つかります。
筆者のおすすめはE-MOKUTEKI.COMです。
こうしたサイトを参考に、思いつくかぎりキーワードを入力してみるとよいでしょう。
本店所在地
会社設立登記申請書に記載する本店所在地は、「〇番地」あるいは「〇番〇号」まで具体的に記載しなければなりません。
もちろん、本店所在場所に税務申告書類など重要な郵便物が届きますから、必ず実在する住所である必要があることはいうまでもありません。
定款には、本店所在地を最小行政区画である市区町村まで記載すればよいことになっています。
しかし、その場合には本店所在地を別途決定した議事録が必要です。
したがって、本店所在地が具体的に決まっているならば、最初から定款に記載しておいたほうが便利であるといえます。
自宅を会社の本店所在地にすることもできます。実際、株式会社や合同会社など、会社の種類を問わず、事務所が不要である会社は、自宅を本店所在地としているケースがほとんどです。
賃借物件の自宅を本店とした場合、会社が家賃を負担することもできます。
ただし、自宅が賃借物件の場合、持ち家とは違い、自由に本店所在地とできないことがあるので注意が必要です。
賃借物件を本店所在地にしようとするときは、事前に賃貸借契約書を確認しておく必要があります。
不安なら、あらかじめ家主に承諾をとっておくとよいでしょう。
賃借物件によっては賃貸借契約書で事業目的での使用を禁止しているものもあります。
あとになって契約違反などの問題が生じると厄介です。契約違反などで退去させられた場合、本店所在地も異動しなければなりません。
本店所在地の異動は登記事項ですから、当然登記費用もかかります。
また、たとえ持ち家であっても、自宅が分譲マンションの場合は注意が必要です。
そのマンションの管理規約によって事業目的で使用できないことがあります。
自宅以外で本店所在地として考えられるのは、実家、レンタルオフィスといったところです。
自宅で難しければ、そちらを本店所在地にすることをおすすめします。
本店所在地はあまり変更しないで済む場所を選ぶことが重要です。
資本金
資本金とは、設立した法人が事業活動をする元手となる資金です。
仮想通貨トレードを行う法人であれば、その資金の大部分が仮想通貨交換業者を通じて購入する仮想通貨の購入資金に充当されることになるでしょう。
現在の会社法では、資本金の額は1円以上ならいくらでもかまわないことになっています。
しかし、実際のところ、1円では会社設立の費用さえ出ません。
かといって、資本金を必要以上に多くするのも考えものです。
仮想通貨の投資資金が500万円必要だからといって、そのまま資本金を500万円にすることはないのです。
法人の基礎財産は資本金だけであるため、資本金は一度計上すると簡単に払い戻すことができないようになっています。
つまり、個人的にお金が入用になっても、法人の資本金にしたお金を自由に引き出すことはできないのです。
仮想通貨トレードを行う法人ならば、仮想通貨交換業者が設定する法人口座開設条件を満たすだけの資本金で十分です。
ただし、余裕をみて資本金を100~300万円ぐらいにするよう助言しています。
資本金が自由に引き出せないのに対して「役員からの借入金」はいつでも引き出せます。
例えば、500万円の投資資金で仮想通貨トレードを開始するとして、①100万円を資本金として400万円を役員からの借入金とした場合と、②500万円の全額を資本金とした場合で考えてみましょう。
この場合、両者とも500万円の投資資金があることに変わりはありません。
しかし、法人に投資資金として出したお金が個人的に必要になったとき、①のケースでは、役員からの借入金である400万円は、役員個人からの債務ですから、法人から役員にいつでも自由に返済できるのに対して、②のケースでは、返済する役員借入金はなく、法人が役員に400万円を「貸し付けた」という取引になります。
自分のお金を法人設立にあたって出したことは①も②もまったく同じです。
しかし、資本金として会社にお金を入れてしまうと、お金を自由に引き出せないのです。
もし引き出すと、それは役員に対する貸付金となります。
役員に対する貸付金では、法人が適正な貸付金利息を受け取らなければなりません。
もし、無利息とした場合は、認定利息として課税されることになります。
これに対して役員からの借入金については、特に無利息でも問題ありません。
もちろん、金銭消費貸借契約書を交わし、そこで定められた利息を法人から役員に支払うことも可能です。
また、役員個人がその法人から給与等以外に貸付金の利子を受けている場合は、確定申告をしなければなりません。
そのため、実務上の手間を考えれば、役員からの借入金は無利息のほうがいいのです。
出資者
法人の出資者は1人よりもできるだけ多いほうが望ましいといえます。
これは出資者を多く募って出資金を多く集めるという意味もありますが、出資者兼役員が複数人いれば、それだけ法人化のメリットである「所得の分散」を図ることできるからです。
個人で仮想通貨トレードをする場合、そこから生じる所得は、その個人の所得となり、その個人だけに課税されます。
対して、法人で仮想通貨トレードをする場合、その運用益は法人の収益です。
この場合、役員報酬や従業員に対する給与を費用として計上できるため、その給与を多く支払うことで、結果、法人の利益(=収益-費用)が減少し、それに応じて法人が支払う税金も少なくなります。
これを所得の分散といい、法人の基本的な節税の考え方です。
合同会社の場合、出資者は皆、原則として「業務執行社員」となり、経営に参加する権利を持つことになります。
そして、その出資者(つまり業務執行社員)に対して役員報酬を支払います。
したがって、家族などで役員報酬の支払いが可能な人であることを前提に、出資者を決めることになります。
法人の役員
株式会社の場合、法人の役員に該当するのは取締役、代表取締役、監査役などです。
一方、合同会社の場合、役員を「社員」「業務執行社員」と呼びます。
一般にいわれる会社員の“社員”とは異なることに注意してください。
合同会社では、出資をした人が業務執行社員(役員)になり、会社経営に参加できる権限を持つのが普通です。
そして、そのなかから代表権を有する「代表社員」を選任します。
代表権を持つか持たないか、また業務執行権を持つか持たないかは、定款の規定で定めることになります。
仮想通貨トレードをする法人を設立する場合、概ね次の3つが考えられます。
役員構成の決め方については、自分以外に妻や仲間の業務への貢献度合いがある程度高い場合、業務執行権さらに代表権を持たせることで所得の分散が図れます。
また、業務執行への貢献度の強弱を判断し、常勤役員であるか非常勤役員であるかを決めることになります。
そして役員報酬の額は、その業務内容に照らした相当額の範囲内で決定する必要があります(役員報酬の決め方については第5章で説明します)。
サラリーマン本人が仮想通貨トレード法人の代表者に就任しても特に問題はないでしょう。
ただし、兼業禁止規定が気になる人は、別の人を代表者にされることをおすすめします。
そのとき、もし結婚されていれば配偶者を代表者にするのが最善の方法でしょう。
もし独身であれば、両親に代表者になってもらうのもいいでしょう。
なお、もともと自分1人が役員だった仮想通貨トレード法人に、あとから配偶者や両親にも役員になってもらうなど、役員を増員する場合、定款の変更と、役員の氏名は登記事項ですから、法務局に登録免許税を支払って変更の登記手続きが必要になります。
また、合同会社の役員は、合同会社に「社員として加入する」ということです。
社員となるには、新たに出資をするか、別の社員の出資金を譲り受けなければなりません(一方、株式会社の役員は、必ずしも出資の義務はありません)。
家族を「従業員」にする場合は、世間一般の雇用者と同じような扱いをすることになります。
したがって、次のような制約があります。
つまり、あまり給料を支給できないということです。
それに比べて役員には、ただ「役員」というだけで、非常勤でも報酬が支払えます。
それなりの仕事をしていれば、高額の役員報酬を支払えるのです。
事業年度
事業年度とは、法人の損益を計算する基礎となる期間のことです。
この事業年度の損益をもとに、会社は2カ月以内に税務申告を行います。
法人の場合、事業年度は原則として1年以内となっているため、必ずしも1年である必要はありません。
半年とすることもできます。しかし、事業年度終了後に確定申告をしなければならないため、現実には1年間とするケースがほとんどです。
季節によって業務の繁忙・閑散の時期が極端な事業では、それに応じて事業年度を決めるべきです。
しかし、仮想通貨トレードのように定まった季節変動がない事業では、会社設立日の前月末を事業年度末として1年決算としている会社が大半です。
例えば、10月中に法人の設立登記をする場合は、9月を事業年度の終了月とします。
この場合、事業年度は10月1日から翌年9月末となります。
著者:柴崎照久 / 木村健太
「仮想通貨トレード法人の設立と節税 ~個人投資家のための起業 A to Z」
パンローリング株式会社、2018年10月、90~95ページ
仮想通貨トレードの個人投資家のための法人化の手引き
本書は、仮想通貨トレード法人の、設立手順からメリット、デメリット、設立後の運用、節税方法まで網羅的に解説。
初歩的・不可欠な情報を提供し、個人投資家が法人化を検討する際の疑問や不安を解消する手引書です。
<目次>